<出会う>京都のひと

「一体感があるのはダメ。口の中で完成するのが、おいしいべた焼の条件」

京都のソウルフード、べた焼専門店。

モッさんのべた焼 店主 国本眞行

■俺なら、こうするのにって思う

母親が粉もんのメッカである東九条の出身。店に置いてある鉄板付きのテーブルがダイニングにある家庭で育った。

「小5から自分で焼いてましたね。今夜はお好み焼と聞いたら、はよ帰らなって。だって、仕込みがあるから」。

べた焼の原風景。少年時代を振り返って笑う「モッさん」こと国本眞行さん。中学校時代の自身のあだ名を冠した「モッさんのべた焼」を京福電鉄の線路沿いにオープンさせ、5年が経つ。

「小学校の頃から練習してるから完成はしているけど、もっと煮詰めていかんと」。ソースが苦手な妻の一言がヒントになった元祖モッさんの塩べた焼1,150円。「塩べたの口になったから来てん」。そんな常連も少なくない。もちろんソースバージョンも。

■組織に寄りかからず 自分で拓く人生

学校教育で、みんなと同じことをやらされるのが嫌だった。高校進学はせず、中卒で働く道を選んだ。

「そして、自由になるお金が欲しかったのもあります」。

国本さんは要領がいいタイプだ。働きに行ってもすぐに、これはひとりでできるなあ、と思ってしまう。

「誰かの下で働いてみたいけど、そう思える人に出会ったことがなくて」。

卒業後に工事現場で働いた以降はほぼ、
組織によりかからず、人生を貫いてき
た。
20代の頃にはレザークラフトの作家に。しかし独学で得られる技術に限界を感じ、「ものづくりの現場を知るために」帆布製品の老舗に短期入社。ミシンの技術と商いについて学んだあと、その後は知人の誘いで車のシートを出張修理する職人になった。

「いきなりひとりで現場に行かされた時は焦りました」。

トラックに積んだ相棒のミシンと共に様々な現場に赴いた。車の販売数が落ち込んだのを機に辞め、件(くだん)のべた焼屋を開店。「いつか」と温めていた夢だった。

べた焼以外のメニューも充実している。壁に貼られた品書きもビシッと整列。主人の職人気質がうかがえる。べた焼以外の品書きにもそそられる。

■自由なソウルフード 原点回帰のべた焼

京都人はよくよくご存知とは思うが、簡単にべた焼の説明を。べた焼とは練り込み焼きではなく、クレープ状に伸ばした生地に具材を乗せる乗せ焼きの一種。同じタイプに分類される広島のお好み焼きは蒸して仕上げるが、べた焼には蒸しの工程がない。広島版に比べ、野菜の量が少ないのも特長のひとつだ。

手先が器用でしゃべりも達者、そして世渡り上手。そんなモッさんがべた焼にハマった理由は一体なんなのか。

「具材の組み合わせとか、自分好みにカスタマイズできるのが好きなんですよね。俺ならこうするのにって思う」。

続く、美味しいべた焼とは? という問いには「一体感があるのはダメ」という意外な答えが返ってきた。

「具が層になっていて、大袈裟にいうと全部剥がれるぐらいがいい。べた焼は口の中で完成させるものなんです」。

ものごとのいいところは吸収しても、決して迎合はしない。いつもそうやって自分の人生を切り開いてきた。

看板商品はなんとソース不使用の「塩べた焼」。そんな彼だからこそ作ることができた、壬生の新名物である。

(2019年11月10日発行ハンケイ500m vol.52掲載)

レモンがぎっしりの鬼生レモン酎ハイ500円は、このまま焼酎を注いでくれるおかわりは、なんと300円。

モッさんのべた焼

京都市中京区壬生高樋町24-19

▽TEL:0759259292

▽営業時間:11時半~14時、17時~22時

▽不定休