<出会う>京都のひと

「ムール貝の並べ方にも向きがある。雑把はダメ」

京都で30年目、スペイン料理のレストラン。

ティオペペ オーナーシェフ マヌエル・モンパル・ゴンザレス

■スペイン人よりも日本人に近づいた。

京都の「職人」を取り上げる『ハンケイ500m』ではこれまで何人もの、海外出身の方々に取材をしてきた。彼らは共通して、その人ならではの目線で日本を気に入ってくれている。彼らのフィルターは、私たちが看過しがちなこの国の魅力を教えてくれる。

北白川にあるスペイン料理店のオーナーシェフ、マヌエル・モンパル・ゴンザレスさんはよどみない日本語で、取材を受けてくれた。言葉の端々から「和服を着せたくなるような」折り目正しい印象を受ける。ゴンザレスさんは「30年前に日本に来たときよりも、むしろ、今スペインに帰ったときのほうが違和感が大きい」と真顔で話す。

カタルーニャ名物、魚介たっぷりのサルスエラ。手長エビ、アンコウ、タイ、ブラックタイガー、赤エビ、アサリ、ムール貝、ヤリイカを入れて、ブランデーでフランベし、トマトソースで仕上げる。

■バイトから料理の道へ 姉に誘われて日本へ

1963年、地中海に面したバルセロナ生まれ。7人兄弟の5番目として生まれた。高校生のときのレストランでアルバイトがきっかけで料理学校にダブルスクールをして、料理の道に進んだ。

「ホールスタッフから始めました。店には巨大冷蔵庫があって、豚肉が1頭まるのままぶら下がっていた。まかないを担当したとき、その巨大冷蔵庫から食材を選んで、自由にフルコースをつくりましたよ、デザートまで! 楽しかった」。

18歳から徴兵にいき、将軍のプライベートシェフを務めた。19歳で除隊後、バルセロナのレストランで2年働いていたとき、京都にいた実姉から声がかかった。

「日本でスペイン語の先生をしていた8歳上の姉に『日本でシェフにならないか?』と誘われたんです。不安? 姉がいましたし、どこに行っても慣れるから大丈夫かなと。そんなに複雑には考えませんでした」。

生ハムを削るゴンザレスさん。「お客さんのご希望に合わせて、ハーフサイズでお出しすることもしています」。

■美麗な皿の盛り付け、細やかな性格

来日して23歳から、御所南にあったスペイン料理店『ティオペペ』で14年働いた。その後銀閣寺、東一条の店を経由して、北白川で自分の店を開いたのは2009年。今年で7年目に突入した。

ゴンザレスさんの味の基準となるのは、故郷バルセロナの家庭料理だ。

「私のシチューはおかあさん譲りです。特においしかった。スペインでは日本のシチューのようにとろみをつけない。あくまで煮込みで、さらっとしています」。

京都にスペインのバルは増えているが、ティオペペはレストランだ。その違いは皿の美しさをはじめ、料理の格にある。

「ムール貝の並べ方ひとつでも向きがある。雑把はダメ。細かくしないと」。

店内には「ラ・マンチャの男」など、たくさんのスペイングッズが飾られる。

美麗に皿を盛り付けるゴンザレスさんの厨房には、鉄製のパエリア鍋が小から大へずらり、叩けば音階が聞こえそうだ

「妻には『細かい』『こだわり屋』って言われます。今の自分は、スペイン人よりも、日本人らしいと思います」。

細やかな日本が肌に合うと話すゴンザレスさん。またひとつ、日本の美点を教えてもらった気がする。

(2017年9月11日発行ハンケイ500m vol.39掲載)

ティオペペ

京都市左京区北白川久保田町52 AMUZA26 1F

▽TEL:0757243440

▽営業時間:11時45分-15時 、18時-22時半(L.O.22時)

▽定休:水