<出会う>京都のひと

「うちがもっと人気店になれたら、西新道錦会商店街にいい店が増える」

昼も夜も酒が飲める、喫茶&バー。

壬生モクレン オーナー 川口まり絵

■記憶が消えるから 飲むのは楽しい

私たち編集部は、1軒の店がその地域の風向きを変えるのを見てきた。河原町五条では「西冨家コロッケ店」が呼び水となり、「Len」「焼く鳥ソリレス」が連なって、河原町五条=飲める場所というイメージが確立した。また鹿ヶ谷では、「ホホホ座」が個性的な店を集める予感を醸している。

「同じように、うちがもっとここで人気店になれたら、西新道錦会商店街にいい店が増える。街の雰囲気が変わると思うんです」。

そんな志を語るのが、壬生モクレンのカウンターに立つ川口まり絵さんだ。

季節のシロップを使ったサワー、今はぶどうといちじく。

■祇園のスナックと木屋町の飲み屋を経て

石川県出身の川口さんは、京都精華大人文学部進学のため、18歳で京都へやってきた。大学のときに最も情熱を傾けたのは「昼夜問わず、永遠に続くような」飲み会だった。

なんとなく企業に就職はしたくなかったから、卒業後は祇園のスナックで働いた。「お手洗いからお客さんが出てくるとおしぼりを差し出す」独特の接客は面白かったが、自分がしたいのはスナックではないと気づく。23歳のとき、自分が客として通っていた木屋町にある「立ち呑みきゃさ」のオーナーから2号店で働かないか、と誘われた。

その店が約6年間店長を務めた「座り呑み きゃばぁ」だ。華やかな街中の雰囲気に「ちょっと疲れて」、木屋町以外の場所で自分の店を構えたくなった。そ
こで見つけたのが、ここ西新道錦会商店街の物件だ。

お店にあるアイテムは仲のよいクリエイターたちのものが多い。「いいな!と思う人は、精華の卒業生が多いです」

■形が残らないもの、消えゆくものへの愛着

最近気になっているものは現代美術、「付き合っている人が美術批評をしていて、影響を受けています」と話す。

特に今、興味があるのはストリートカルチャー。壁に描かれた落書き「グラフティ」は、せっかく描いても消されてしまう、そこに惹かれる。

「あと、花が好き。枯れるから好き」。

花のなかで一番好きなのはモクレン。店を開いた3月はちょうど季節でもあり、店名に選んだ。

そんな川口さんが、仕事にするほど好きなのはお酒だ。

「お酒って、飲んでいるときは楽しいのに、記憶が消えていく。一緒にいたみんなが楽しかったはずなのに、確実な記憶の照らし合わせもできないし、その時の再現もできない。そこがいいんです」。

口さんの好きなものには共通点がある。今この瞬間にしかない、流れて形に残らないものを愛してやまない。

さて今宵も、壬生でモクレンが咲いている。「西新道錦会商店街を元気にしたい」心意気を味わいに、足を運んではいかがだろう。消えゆくお酒の時間こそ、あなたの心に残るものだから。

(2019年11月10日発行ハンケイ500m vol.52掲載)

昼は定食も出す。「ランチにNISSHAさんやリサーチパークの方が来てくれることもあります」。月に何度かイベントもあり、クリエイターのポップアップや、シルクスクリーンを使ったワークショップなどを企画。

壬生モクレン

京都市中京区壬生下溝町60-15

▽TEL:09020394774

▽営業時間:11時~15時、17時~23時

▽定休:日、月