<出会う>京都のひと

「体は『食』でできていて、心と感性は『アートと音』でできている」

海外の旅行客にも愛される、ヴィーガンレストラン。
NATURAL FOOD VILLAGE 店主 達野Ziva

■会えば同じ「種族」だとわかる

2021年の夏、ついに20周年を迎えた。近郊の有機野菜を使用したヴィーガン料理の専門店、ナチュラルフードヴィレッジ。ヴィーガン(菜食主義)と聞くと反射的にストイックなイメージが浮かぶ。でも店主の達野さんは、ゆるりとした風情の人だ。

ランチより。メインのベジカツをはじめ、日替わりのおかず7皿と古代米のご飯、スープがセットになった虹色御前1,200円。夜はバックパッカーだった店主らしい多国籍な一品料理を展開する居酒屋に。テイクアウトメニューも用意する。

■スノーボードとバックパック。4年間の放浪ののちに

京都出身の達野さんは、高校時代のバイト先で料理を作る楽しさに開眼。調理師専門学校を卒業した後、京野菜レストランで店長をしたのも束の間、「たまたま始めた」スノーボードにのめり込み、自由な放浪の旅を始める。
1年のうち春から秋までは、南半球のニュージーランドでスノーボードをしたり、東南アジアをバックパックで旅したり。冬になると帰国して、長野県の白馬の雪山にこもって働く。そんな21歳から25歳の4年間の生活を変えたのは、カンボジアで見た光景だ。

「当時のカンボジアにはポルポト政権による悪政の影響がまだ残っていて、地雷で手足のない人や、貧しい人たちがたくさんいました。『いつまでも遊んでいる場合じゃない』と思いました」。
その時に沸き上がった、人の役に立ちたいという想い。自分にできることはなんだろう? その答えが料理だった。
帰国して飲食店勤めを経て、29歳のときに開店。北白川通に大きな窓が開かれた2階。室内に居ながら大好きな自然を近くに感じられる、思い描いていたイメージ通りの場所だった。

大きな窓から望む山の景色。時間を忘れる空間だ。

■「食」と「アートと音」。体と心を充電する

世界を旅した達野さんが行き着いたのが、多様性を認めた上での菜食料理だった。「僕の場合、動物性の食品を食べすぎると、思考も肉体も鈍って、思うような滑りができない気がした」と達野さん。菜食主義にしたのは自身の肉体的な感覚が理由だった。決してそれがすべてではなく、「僕の場合」を強調するのが印象的だ。
2001年のオープン当初は、オーガニックという言葉は一部の人間しか知らなかった。無農薬の野菜を探すのもひと苦労だったそうだが、人のつながりと時代に後押しされ、今までやってきた。
「体は『食』でできていて、心と感性は『アートと音』でできているんです」。
心と感性。その言葉に店内を見渡すと、即興ライブで使われる楽器やアート作品の展示に気づく。ここの魅力は菜食料理だけではなく、店内のアート、音楽にもある。実際、さまざまな地域から人が訪れ、3人に1人が海外の旅行客だったときもある。

「言語が違っても、会えば同じだとわかるんですよね。ここは同じ感覚を持つ『種族』に会える場所です」。
体と心と感性が豊かになって、同じ感覚の人に出会えるなんて、そんな場は滅多にない。ナチュラルフードヴィレッジは店ではなく、まさしく「村(ヴィレッジ)」なのだ。

店内に何気に置かれた楽器たち。音楽には人を解放させる力がある。時には予告なしでセッションが始まることも。

NATURAL FOOD VILLAGE

京都市左京区一乗寺築田町95 第1メゾン白川202
▽TEL:0757123372
▽営業時間:12時〜15時、18時〜22時(※日曜日は夜休み)
▽定休:月

(2021年3月12日発行 ハンケイ500m vol.60掲載)

最寄りバス停は「一乗寺木ノ本町」