<出会う>京都のひと

「創業者である父と一緒に仕事ができたのが、私の一番の幸せです」

あん炊きから丁寧に 竹田街道筋のおまん屋さん

ふたば菓舗 経営者 鈴木康之

■奇をてらわない。『おいしいなぁ』と感じていただけたら

その味を知った人は、車を駆ってでも買いに来る。決して、近所の人のためだけの「おまん屋」さんにあらず、地方からわざわざ足を運ぶ常連客が多い菓舗だ。

折しも取材のとき、壮年の男性客が車を横付けにして水無月(みなづき)を買いに来た。

「京都にはたくさんのお菓子屋さんがあるけれど、この店の味は4本の指にあがる。一度知ったら忘れない美味さです」と言い残して去っていった。

最中は、注文を受けてからあんを詰める。

■竹田街道で商い61年 あんもすべて自家製

かくいう編集長Eも、なにげに訪れた店であったのが、丁寧に焼かれたどら焼きの皮に感嘆し、ふたば菓舗のとりこになった口だ。

創業は1957年(昭和32年)。上賀茂に生まれ、大和大路の団栗橋近くで修業を積んでいた鈴木吉若さんが、独立するにあたり竹田街道に店を開いたのが始まりだ。

「修業先の親方が『店を出すなら街道筋にかぎる』と、竹田街道のこの場所を見つけてくれたそうです」。

吉若さんから暖簾(のれん)を受け継いだ息子の鈴木康之さんは2代目の58歳。昔ながらの町のおまんじゅう屋さんといった風情を呈す店先で、店の特徴を聞いた。

「強いていうなら、あんを炊くところから、すべて自家製であることでしょうか。小豆を炊いて、皮と身に分けて、中身だけを使ってあんをつくります」。

控え目に語る康之さん。しかし、手間と時間がかかる重労働ゆえに、一からあんを炊く店は最近とみに減ってきていることを添えておきたい。

本来、取材はお断り。作業場も非公開ながら無理をのんで応じてもらった。製造から販売まですべて主人の康之さんによる。

■将来の夢は「おまんじゅう屋」揺るぎない菓子への姿勢

わずらわしい工程を避けず、手間を惜しまず、粛々と菓子を作る。

「菓子は奇をてらわなくていい。お客さまに『おいしいなぁ』と感じていただけたら」。

作り手の素朴な願いが、店の壁にずらりと掛かった表彰状に現れている。

高校卒業後すぐに、吉若さんの傍で、見様見真似で菓子を学んだ康之さん。親であり、師匠でもあり、そしてライバルである吉若さんから「かならずしも同じことをしなくていい。これがすべてやない」と言われてきた。

「父の薫陶を受け、この齢で発見できることがある。創業者である父と一緒に仕事ができたのが、私の一番の幸せです」。

2014年に吉若さんが他界した後も変わらず、菓子を作りつづける。

「幼なじみが小学校時代の文集を見つけて、『あの頃の夢をかなえたのはお前だけ』といわれました。自分でも忘れていましたが、見返してみると文集には『将来の夢はおまんじゅう屋さん』とありました」。

流行に左右されない。他店の菓子を気にしない。「時流に乗るよりも、微細でも父の一脈の流れを引きたい」、康之さんの菓子に対する姿勢は揺るぎない。

(2018年9月10日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

店内には親子2代にわたって菓子作りに 貢献した足跡がずらりと並ぶ。「菓子と絶えず向き合っていないと、一生見つからないものもある。見つけられたことがこの店の財産になるのです」

ふたば菓舗

京都市南区東九条中札辻町10

▽TEL:0756912405

▽営業時間:8時半頃~18時半頃

▽不定休