
「質の高いクラフトビールを作って、はじめて支援になる」
地元の素材を使う、小さなビール醸造所。
京都・一乗寺ブリュワリー 醸造責任者 林晋吾、醸造士 横田林太郎
■新作にチャレンジしたい
小規模醸造所による「クラフトビール」(手づくりのビール)は、1994年の法改正により、日本各地で造られるようになった。現在、全国にはおよそ350カ所、京都には10カ所のブリュワリー(醸造所)があり、京都・一乗寺ブリュワリーもそのひとつ。2011年に醸造を開始、オーナーである精神科医の高木俊介さんはビール造りを通じた障がい者の就労支援を目標に掲げている。
醸造に関わるスタッフは林晋吾さんと横田林太郎さんの2人。横田さんが2014年に、その1年後に林さんが入社した。共に京都出身。「年上なので醸造責任者になっただけ」と笑う林さんは44歳。実は、ここにやって来る前は、日本酒の蔵元で働いていた。

■日本酒の蔵でなぜかビール造りの腕を磨く
林さんの出身大学は関西大学工学部生物工学科。日本酒に興味をもったのは、酒造りを描いた漫画『夏子の酒』がきっかけだった。
しかし就職活動は難航。林さんの熱意を買ってくれたのが、京北町の老舗蔵元「羽田(はねだ)酒造」だった。
しかし、想定外のことが起きる。日本酒ではなく、近年スタートしていたビールの醸造事業を一任されたのだ。
「日本酒が各工程のプロが協力しあうチームプレーなら、小規模クラフトビールは1人で全工程を担う個人プレー。その分、造り手の思いが表現でき、小ロットで醸造できるので色々な挑戦もしやすい」。
ビール醸造は、個人の裁量が広くておもしろかった。林さんはシンプルで奥深いその世界にはまっていった。

■感覚の林と知識の横田。歳の差の名コンビ
対して、横田さんは現在32歳。東京農業大学で6年間、発酵学を学んだ。在学中のボランティアでホームレスには障がいのある人が少なくないと知り、オーナーの理念に共感しての入社だった。
現場では、感覚派の林さんを知識でサポート。大学で得た研究成果や公開されているレシピを元に、理想の味に向けて細かな設計図を描いてゆく。
「たとえばピルスナーならピルスナー。ビールにはスタイルがある。スタイル通りに作れているかを大切にしています」。
感覚の林さんと知識の横田さんの名コンビは得意分野を生かして、さまざまな味のビールを手掛ける。初めてふたりで造った「ベルジャンウィート」は初年度からインターナショナルビアカップで銀賞に。手応えを感じた瞬間だった。
障がい者とのビール造りのために、ふたりは着実に準備を進めている。「質の高いクラフトビールを作って、初めて就労支援になる」と口を揃える。個性を出すために、水尾の柚子を使うビールなど、地域の生産者らとの連携もテーマだ。
「大企業にはないフットワークの軽さが、小さなブリュワリーのいいところ」。
目下、新作の仕込み中。京都ならではのフレーバー、お披露目はもうすぐだ。

京都・一乗寺ブリュワリー
▽京都市左京区一乗寺築田町100-5
▽TEL:0757022002
▽営業時間:10時〜17時(不在の場合もあるため、来店の際は事前に電話を)
▽不定休
(2021年3月12日発行 ハンケイ500m vol.60掲載)
最寄りバス停は「一乗寺木ノ本町」

