<出会う>京都のひと

「真面目は才能だと思うんです」

コーヒー豆の販売も行う、地域密着の鉄板料理専門店。
鉄板食堂 BARREL 店主 樽家基、樽家弥里

■やりたいことはできるうちにしておかないと

阿吽(あうん)の呼吸で働く樽家基(たるや・もとい)さんと弥里(みさと)さん。2年前に開店した「BARREL」は、ふたりの半生の集大成でもある。

フォンドヴォーから仕込む、自家製デミグラスソースで。ハンバーグランチ1,000円~(ご飯、サラダ、ドリンク付き)。

■学生結婚で卒業 そして、飲食の道へ

兵庫県の播州赤穂で生まれ育った基さんは、佛教大学進学を機に京都へ。一方、弥里さんは西院育ち。2人は同じ学科で、基さんはいつも几帳面に取ったノートを、休みがちな弥里さんに貸していた。バイト先も同じ。ほどなくしてふたりは付き合うようになった。そして愛し合うふたりは、在学中に結婚を決める。

「ご両親に『大学を辞めて働きます!』と言ったら『世間は甘くない』と怒られたんです。『ちゃんと卒業して、結婚生活も続けられる方法を考えなさい』と」。基さんは西院のお好み焼き屋「カントリー・ブー」でのバイトと学業を両立させ、晴れて卒業を果たした。

「進学したとき僕は教員を目指していたけど、軌道修正しました。『料理が好きだったので、この道に進もう』と」。1年間、社会勉強のためサラリーマンを経験し、飲食の道へ。35歳までのあいだ、鉄板料理一筋。独立前にはイタリアンのシェフのもとで洋食を勉強した。

「僕は真面目です。真面目は才能だと思うんです。それだけでやってきた」。

手こねでふわふわの食感に。

■おおらかな妻が夫の背中を押す

自他ともに認める真面目ゆえに心配性でもある夫・基さん。実は、2018年に「BARREL」を開くときは4人目の子ができたばかり。自分の店を持ちたいが、勤め人を辞めていいのか。基さんは決めかねていた。その背中を押したのは妻・弥里さんだ。

「彼は、学生結婚をしたから教師になる夢をあきらめたわけです。でも、自分の店を持つ夢は、かなえてあげたかった。お金は稼ぐなり借りるなりすればいい。でも、やりたいことはできるうちにしておかないと、とり返しがつかない」。

稼ぐなり借りるなりと言えるおおらかな妻は、決して多くない。弥里さんの正論に、編集部一同、激しくうなずいた。

そうして「蛇口屋」というコーヒー豆屋を営んでいた弥里さんの実家を改装。名字の一字である「樽」を英語読みした鉄板ハンバーグの店「BARREL」が晴れて開店した。幸せなことに、今や「BARREL」で「蛇口屋」の豆を販売、しかもコーヒーが飲めるようになった。

「BARREL」の一角には「蛇口屋」の豆販売専用コーナーが。100gなんと280円~。

真面目な基さんに対し、おおらかな弥里さん。ふたりの性格はまるで正反対だ。でも、そこがいい。

「ビビりの僕の背中を、奥さんはなんだかんだ押してくれる。『なんとかなるから!』って」。

そうして今や長男は高校生、次男は中学生、三男は小学生、長女は幼稚園の大家族だ。ママ友パパ友をはじめ、ご近所さんに愛されるこの鉄板食堂のハンバーグは幸せの味がする。「BARREL」はますます繁栄していくのだろう。

(2020年3月10日発行ハンケイ500mvol.54掲載)

だしを効かせた生地を高温でさっくりと焼き上げる。夜メニューのお好み焼き(豚玉)600円。ほか、産直の食材を使った季節の鉄板焼なども。

鉄板食堂 BARREL

京都市右京区西院西淳和院町10

▽TEL:0759503021

▽営業時間:平日のみ11時半~14時半(L.O.14時)、17時半~23時(L.O.22時)

▽定休:日・祝

最寄りバス停は「西大路三条」