<出会う>京都のひと

「時代とともに。これからの農家は、人間心理を理解しないといけない」

「すぐき」をはじめ、4 0種類以上の野菜を作る専業農家。

森田良農園 代表 森田良彦

■農業とは、生命維持産業

飲食店の取材が多いハンケイ編集部、よく耳にするのが「野菜は森田農園さん」。今回の取材にニコニコして現れた森田良彦さん、やわらかい口調はおおらかな大地のようでもあり、強い意志をもつ太陽のようでもある。

森田さんは生まれも育ちも上賀茂。高校も桂高校の農業専門学科を選んだ。その頃から農業に従事し、丸50年が経つ。

「私で3代目。親父が戦争で体を壊しとったから、農家を継ぐのが自分の使命だと思った。当時はし尿を発酵させた肥料で、体に匂いが付くのが嫌だったね」。

有機肥料を大切にしてきたルーツが、「土の力をどうやって引き出すか」を考える、森田さんのスタイルにつながった。

さて、昔、上賀茂の冬といえば「すぐき」ばかりだった。夏はトマトときゅうり。野菜を台車に乗せ、振り売りと呼ばれる移動販売で回った。時代は移ってスーパーや飲食店に販路が広がった。

自慢のすぐき漬と獲れたての野菜。上賀茂の 伝統野菜のほか、からし菜の一種であるコーラルリーフや茎の色が赤や黄のほうれん草、スイスチャードなどの洋野菜も手がける。

■これからの時代、求められる野菜を

そして作付する野菜も変わった。秋だけで、大根だけで6種類、全体でおよそ40種の野菜を栽培する。畑の総面積は60アール(6千平方m)で、主に上賀茂、加えて岩倉にも農園をもつ。現在はリクエスト栽培と称し、飲食店のシェフからのオーダーに応えて、さまざまな野菜の栽培に挑戦している森田さん。

「サラダ系が多いね。お客さんに喜んでもらえた時が一番嬉しい」

時代とともに共働きが増えた。おのずと人気の野菜も変わる。人々の食生活を観察しながら、栽培すべき野菜を選んできた。近年は自家栽培のすぐきパウダーを開発。栄養価も高く、加工しやすい。健康志向な現代社会を映した新商品だ。

「これからの時代、私たち農家が生き残るためには人間心理を理解しないといけない。野菜を作っているだけではダメ。どんどん発信して、追求しないと」。

フェイスブックにもきちんと情報をアップする。時代に合わせて変化していく過程を、森田さんは楽しんでいる。

深泥池近くにある、森田さんの農業ハウス。手入れが行き届いた畑に収穫を待つ葉物野菜が一面に植わっている。

■人間の命を作る農業の尊さを伝えたい

「農業とはどんな仕事ですか?」との問いに対し、「生命維持産業」と即座に答えた森田さん。「人間が命を維持していくのに欠かせない農業の大切さを伝える」という使命が、森田さんの行動力を支えてきた。

「ひとつの種が命を救う。誰だって、食べないと生きていけないから」。

長年取り組んできた有機農法を広めるため、研修生は積極的に受け入れる。

「誰もやってくれないです。だから、人に頼む前に自分で実績を作って、人に教えていく。とりあえず、前へ、前へ」。

農業は終身雇用だから定年はないと、72歳の森田さんは前のめりに取り組む。与えられた自分の使命をまっとうする。その言葉は、上賀茂の大地に根を張る野菜のように、力強かった。

(2020年1月10日発行ハンケイ500m vol.53掲載)

すぐきの樽詰め作業は上賀茂の冬の風物詩。伝統的な食文化を守ることも大切な務めだ。

森田良農園

京都市北区上賀茂池端町25

▽TEL:0757914880

▽不定休