<出会う>京都のひと

「注文を聞いてからパン粉をつけたい。味は同じようでもやっぱり違う」

住宅街で40年以上愛され続ける洋食屋。

キッチンぽっと オーナー 小泉 信

■自分は頑固者

開店を待ち構えていた客で店内はたちまち満席になる。メニューとにらめっこし、ふとキッチンに目をやると、繁盛店にもかかわらず料理人は1人だけ。グレーの髪を束ね、するどい眼光で料理と向き合う姿はまるでサムライのようだ。

ヒレカツ、チキンカツ、ハンバーグ、エビフライ、チキンから揚げ、フィッシュフライ、ビーフカツ( +150円) 、クリームコロッケ(+100円)から好みの2品が選べるコンビ1,000円。写真はハンバーグとデミグラスソースがかけられたチキンカツのコンビでごはんと赤だしが付く。

■世代を問わず愛される、軽やかな洋食を

オーナーであり料理長の小泉信さんと洋食の出会いは学生時代。当時、岡崎にあった食事処でバイトをしたのをきっかけに、縁あってそのまま就職。その店で洋食を学んだ。大学は経営学部だったが、会社勤めをする気はまったくなかった。

その後、27歳の時に独立。たまたま借り住まいしていたマンションの1階が空テナントだったため、そこに修業先で体得した洋食を供する店をオープンさせた。それがこの「キッチンぽっと」。北山は今でこそ住宅街だが、1975年のオープン当時は田園地帯。集合住宅といえばマンションではなく下宿で、お腹を空かせた京都産業大学の学生がボリューム大の洋食を求めた。「まだ店があって嬉しい」と当時を懐かしんで訪問する卒業生も少なくない。

「当時からボリュームもメニューもほぼ変わっていません」、大きな変化はデミグラスソース。昔はしっかりと小麦粉を炒めて重厚だったが、今は炒める時間を短縮し、味、テクスチャーともにライトに。フライ系もラードは使わず、サラダ油でからりと揚げる。学生仕様のボリュームに最初はひるむが心配無用。フライはどれも驚くほどに軽やかな食感で、あっという間に胃袋に吸い込まれていく。

そう。アクセスがいいとはお世辞でも言えない場所にも関わらず、多くの人の胃袋をつかんで離さない理由は、言うまでもなくこの味にある。

フライには、さっくりとした食感を生む粗挽きの生パン粉を使用。

■時間がかかるのには理由がある

「材料に原価をかけているから人を増やせない。お客さんには安い値段でお腹いっぱいになって欲しいから、自分ががんばるしかない」。

以来、ずっとひとりで店の味を守ってきた。仕込みは朝8時から。毎週水曜日の休みも、あってないようなものだ。

「ピークタイムはお客さんを待たせてしまうからよく怒られるんです」。

人気メニューのチキンカツ、効率化のためあらかじめパン粉をつけるのが飲食店の常識だ。でも、小泉さんはオーダーを聞くのを待って、パン粉をつける。

「注文を聞いてからパン粉をつけたい。あらかじめ用意しとくのは嫌なんやね。味は同じようでもやっぱり違う」

どんなに客が多くても、丁寧な仕事を貫くことは並大抵なことではない。小泉さんはそんな自分を「頑固」と評する。いや、頑固者でおおいにけっこう。

種類も豊富な定番に加え、冬はシチューやグラタンも登場する。今日は何を食べようか。メニューを手にあれこれ悩む時間も、また愛しい。

(2020年1月10日発行ハンケイ500m vol.53掲載)

ヨーロピアンな内装は奥様が担当。

キッチンぽっと

京都市北区上賀茂梅ケ辻町16

▽TEL:0757216907

▽営業時間:11時半~14時15分L.O.、17時半~20時15分L.O.

▽定休:第2火・水