
「映画館の風景や空気、座席の感触。いろんなものに結びついて、映画は記憶になる」
開業して半世紀、サブカルに強いミニシアター。
京都みなみ会館 館長 吉田由利香
■映画で悩み、映画に救われる。
ライターKの偏見によれば、映画館がある街の品格は高い。オンデマンドでコンテンツをダウンロード、カウチポテトでホームシアターも悪くない。だが映画情報をしっかり読み込み、上映時間に合わせて着衣を整え館に足を運ぶ。その面倒を天秤にかけても、赤い座席に腰かけ大スクリーンで鑑賞したいと願うほど精神性の高い住民が一定数いないと、映画館は存続しない。それゆえ、街の品格はおのずと高くなろうというものだ。
東寺そばの京都みなみ会館、開業は1964年。経営者の変遷を経て、現在はミニシアターとなっている。

■学生時代に映画を学び、24歳で館長に
館長の吉田由利香さんは29歳、左京区出身だ。銅駝(どうだ)美術工芸高校在籍時には映画研究部に所属した。
「高3のとき、ゴダール特集を観に、鴨川沿いをみなみ会館まで自転車を漕ぎました。 3、40代の大人たちに囲まれて、背伸びして観たオールナイト上映は忘れられません。ほぼ寝ちゃいましたけどね」。
映画好きが高じて、京都造形大学の映像芸術コースに進学した。卒業後、アニメーションを自作するかたわら、みなみ会館でアルバイトを始めた。本腰が入ったのは、24歳で館長に就任してからだ。「映画を仕事にして、映画で悩むことが増えました。でもインプットしたいのも映画。映画で『そうそう、自由に生きて、いいんだよね』と救われる」。

■熾烈な情報戦、仕掛けるのは得意分野
映画館の支配人(みなみ会館では館長)の仕事が、熾烈な情報戦であることはあまり知られていない。ウェブや配給元からの情報収集は大切な日課だ。
「映画館は、配給会社と交渉して、上映する作品を確定します。大手のシネコンは事情が異なりますが、独立系のみなみ会館のような規模の場合、最初に『上映したい』、と手を挙げた館に優先権がいきます。だから、いち早く情報を得る必要があります」。
京都シネマはアート寄りの良質な欧米作品が得意。立誠小学校跡地の立誠シネマはインディーズや若い監督作品に強い。一方のみなみ会館、吉田さんは、作品を選ぶときに「らしさ」を意識する。

「ビスコンティは京都シネマで観たいでしょう? カルトやアジア映画、ドキュメンタリーは積極的に仕掛けます」。
冒頭で触れたように、自宅で手軽に映画が観られる時代だ。それでも映画館に足を運ぶ意義があると、吉田さんは話す。
「映画館の風景や空気、座席の感触。いろんなものに結びついて、映画はその人の記憶になる。年に何本あるかわからない心に残る映画を、みなさんが観たのが、うちの映画館でありたい」。
映画館すなわち記憶のための設備とは、なんたる贅沢か。街の品格が高くなるのもむべなるかな。みなみ会館を擁するこの街に、Kは嫉妬する。
(2017年7月10日発行ハンケイ500m vol.38掲載)
京都みなみ会館
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