
「花が咲いていたら『きれい』と思う。その感性が人を豊かにしてくれる」
藍皿に引き込まれて、古美術の世界へ。
古美術清水 店主 清水拓郎
■無意識の美は、使って気持ちがいい。
東寺の南門の真向かい、ガラスのドアを開くと、足元の石像と目が合った。「これは田の神さん、鹿児島の信仰対象です。この神様がいる家は栄えるとされて、田の神さんを盗みに泥棒が入ったほど。だから、田の神さんは1年ずつ交代で村の家を巡回するようになったそう。ね、なんともいえない表情でしょう?」。
おだやかな口調の若き店主に招かれるまま、木目のテーブルに座る。無造作に差した白いあじさい、店の奥から嬰児(みどりご)の声。車の往来が多い九条通沿いなのに、静謐(せいひつ)な時間が流れている。

■名も知らぬ藍皿、その青に引き込まれて
古美術清水の清水拓郎さん、36歳。彼が創業者だ。二代目や三代目が主流を占める業界で、一代目とはめずらしい。
清水さんは熊本県出身。工業高校を卒業し、高速道路関連の機器をメンテナンスする会社に就職、関西に配属された。「両親が公務員なので、自分も安定志向で仕事を選びました。器どころか、骨董という職業が世の中に存在していることすら考えたことがなかった」。
兵庫に配属になった20歳のある日、骨董店に並ぶ青皿を見かけた。手描きの絵柄、深みのある藍色に釘付けになった。人生で初めて古美術店の敷居をまたぎ、その青が「呉須(ごす)」という中国由来の顔料であること、その皿が伊万里(いまり)焼きと呼ばれることを知った。
「おもしろいな、なんやこの世界! と。いろんな器があるし、一つひとつ違う。見ていたら引き込まれていく」。
神戸・三宮にある古美術西木の西木義彦(にしき・よしひこ)さんは、清水さんの疑問になんでも答えてくれた。働きながら店を手伝うようになり、23歳で本格的に弟子入りした。
「365日が修行です。北野天満宮、東寺の弘法市、四天王寺の骨董市に毎月出るのに加えて、ネット販売と畑仕事。あっというまに7年が過ぎていきました」。
30歳で独立。シャッターを開けると木造の大きな門が見える景色に一目ぼれして、この場所に古美術清水を構えた。

■職人の仕事ぶりは手描きの線に出る
清水さんが骨董を選ぶ基準は「ラインが厳しいか」。職人の仕事ぶりが伝わってくるかどうかを大事にする。
「すべて手描きの、江戸時代より古いものだけを扱います。この素朴な線は、現代作家には描けないですよ」。
真似のないオリジナルは無意識の美を備える。そんな美しさを、清水さんは「使ってきもちがいいもの」ととらえる。
「生活のなかで、花が咲いていたら『きれい』と思う。その感性が人を豊かにしてくれる。骨董は感性の世界を広げる、ひとつの入り口なのだと思います」。
20歳のあの日に青皿に出会ってから、16年間骨董尽くし。清水さんは骨董以上におもしろいものに出会えていない。情熱は、高温を過ぎると青い炎になる。どこまでも深い、あの呉須と同じ青だ。
(2017年7月10日発行ハンケイ500m vol.38掲載)

古美術清水
▽TEL:08031076679
▽営業時間:11時~ 日没
▽定休:火

