<出会う>京都のひと

「自分の巣を、羽であおいで冷やすミツバチ。そのかわいさといったら!」

販売から養蜂へたどり着いた、ハチミツ専門店。

Au Bon Miel(オボンミエル)店主 大久保ひとみ

■食べ物がなかったらミツバチがかわいそう。

バス停北白川の北側にあるハチミツ専門店。つくりつけの木棚には、黄金色の濃淡が詰まった小瓶がずらり。

「試食できますよ」の声につられて、花の名が書かれた小瓶をなめてみる。そば、アカシア、れんげ、くり、リュウガン。嗅ぐよりも濃密に、香りが立つ。ふくよかな蜜の味につられて、瓶から瓶へと味見のスプーンが飛び渡る。もしかしたら、いくつもの花から百花蜜を集めるハチも、こんな気持ちなのかもしれない。

ハチミツの瓶の数々。常時40 ~ 50 種類ぐらいが味見可能。「少量のほうがしっかりと風味がわかります」

■ハチミツの魅力を伝えるサロン 京大の研究者が立ち寄る

店の名はオボンミエル。フランス語で「よいハチミツ」の意味だと、店長の大久保ひとみさんが教えてくれた。

大久保さんは西陣出身。20年間手描き友禅職人をしていたが、業界は斜陽に。そこで「まったく違う仕事がしたい」と、3年間京都大学総合博物館で働いたのちに、京都市内にあるハチミツ専門店の店長を約8年務めた。

もともと動物好きだった大久保さんは、小さなハチたちが全身全霊でつくりだす黄金の液体に夢中になった。

「ヨーロッパに較べると、日本はハチミツの需要が低いですね。ハチミツは本当にヘルシーフードで、私も風邪をひかなくなりました。ハチミツの使い方を、専門店に足を運ばない方々にもっと知らせたいと思うようになりました」。

その想いは「サロンのようなハチミツ店」に結実する。日本各地やパリを訪れ見聞を広めた。2014年8月3日、ハチミツの日に54歳で自分の店を構えた。「京大に近いから、研究者が立ち寄ってくれるんです。なんでもアフリカでは、ゾウよけのためにハチを飼う集落があるそう。ここ北白川は、そういった情報交換ができるのがおもしろいです」。

京都市内の某所で養蜂をする大久保さん。「ニホンミツバチが住んでいる場所は緑化が進んでいて環境がいいんです。まずはミツバチの住める環境を整えて、日本の都市養蜂も盛んになればいいと思います」。

■興味が高じてニホンミツバチの養蜂を始める

いくらミツバチ好きでも、高じて養蜂を始めるハチミツ屋はめずらしい。いわゆる職業養蜂で飼われるのは、明治以降に輸入された西洋ミツバチだ。ハチミツの生産量が多く、職業としての養蜂に向く。一方、大久保さんが趣味で育てているのはニホンミツバチだ。

「野生で逃去性が高いニホンミツバチは、日本古来種で病気にも強く、スズメバチに襲われても負けない方法をもっているんです。暑い日には自分で吸ってきた水を撒いて羽であおいで、巣を気化熱で冷やすんです。そのかわいさといったら!」。

ここ十年来、地域活性化と自然学習のために、東京ではビルの屋上を利用した都市養蜂が根付いている。大久保さんは養蜂に興味がある人には、まず蜜源ありきで考えてほしいと話す。

「ミツバチの行動範囲は直径約2キロ。開花時期のずれも考えて、巣を設置しないと。だって食べ物がなくてミツバチが死んだらかわいそうでしょう?」。

大久保さんがハマったハチミツの壺、まだまだ底に足が届きそうにない。

(2017年9月11日発行ハンケイ500m vol.39掲載)

今出川通り沿い、ピンクと白のタイル張りがかわいい店舗。

オボンミエル

京都市左京区北白川久保田町60-13

▽TEL:0752002913

▽営業時間:12時~19時

▽定休:木、第1と第3水