<出会う>京都のひと

「日本画の髑髏は一つひとつ表情が違う。怖さよりも美しさを感じます」

和服で撮影も大歓迎、妖しのアンティーク着物専門店。

戻橋 店主 渡辺健人

■好きなものを集めて、訪れる人を驚かせたい。

赤と黒の配色が印象的なアンティークの和服店、店の奥には色とりどりの着物や和装小物が陳列されている。ビビッドな色遣いを好む、ただそれだけの店だと思っていた、2階に通されるまでは。

階段を登ると、濃密なまでの大正ロマン趣味が炸裂、赤黒に彩られた妖しい部屋が待つ。中央に吊るされた、凝った刺繍のあでやかな打掛に目が行く。暖炉の上には骸骨の置物。廃墟めいた壁、檻の黒猫がにゃあと鳴いた気がした。

赤い背張りのデコラティブなひじ掛け椅子に座る。腰かけているのは、江戸川乱歩の怪奇小説『人間椅子』なのではと倒錯した想像がふくらむ。この面妖な館の主はいったい何者なのだろう。

耽美で退廃的、なおかつ本物志向がいきわたる店内。「好きなことだけやっていきたい」。なお、店の名は近所の堀川に架かる一条戻橋にちなむ

■幼いころから独特な美的センス。大卒後1年で、自分の店をもつ

和服に身を包んだ渡辺健人さんは滋賀出身の33歳。独特の美意識を備えた、一風変わった子どもだった。

「小学生の頃、父に骨董市に連れていってもらい、着物や古美術を眺めるのが楽しかった。絵を描くのが好きで、葛飾北斎などの浮世絵を模写していました」。

京都成安高等学校の美術コースから、成安造形大学に進学し、日本画を専攻。在学中には東寺の弘法市でアルバイト、古い着物を扱った。

卒業後は西陣織の生地屋に就職するが、扱うのは化学繊維ばかりで、魅力が感じられずに辞めた。大学卒業後1年で、自分で古い着物を扱う店を始めた。仕入れは業者のオークションと、出張買取や持ち込みが主だ。かつての父親の実家を改装して、戻橋を開いた。

エッジの立った方向性は、コスプレ好きのお客さんにもファンが多い。「うちは特殊なお客さんが多いです。先日は香港からも訪れました」。

■内装、撮影、フリーマーケット。戻橋のすべてが作品

日本画をたしなむ渡辺さんが追求するモチーフは、和風の髑髏(どくろ)だ。

「私が好きなのは日本画の髑髏。一つひとつ表情が違うから。怖さよりも美しさを感じます。たまに西洋の髑髏ももらうんだけど、あれは違うんだよなあ」。

渡辺さんの好みは明確だ。着物は大正から明治のアンティーク、素材は正絹で、凝った刺繍か手描きが施されているもの。家具はカーブが美しい猫足。画家は知内兄助(ちない・きょうすけ)。江戸川乱歩の世界観も好きだ。

「最近は写真も好きになってきました。古い着物を着て、うちのスタジオで撮影したものがいいですね」。

実は、ここ戻橋は写真スタジオでもある。アンティークの和服を購入すると、館内で自由に撮影ができる。

さらには毎月着物フリーマーケットを開催。リサイクルの着物、帯から草履(ぞうり)までたった500円で手に入る。上から下まで揃えても3500円也。「私自身、初めての和服は露店、500円で手に入れましたから」と、渡辺さんは微笑む。

独特の美意識と世界観で構築された空間。「好きなものを集め、訪れる人を驚かせたい」、内装や写真撮影、フリーマーケット。サービス精神あふれる戻橋のすべてが、渡辺さんの作品だ。

(2017年11月10日発行ハンケイ500m vol.40掲載)

一室は渡辺さん自慢の和風髑髏コレクションが集められている。壁には渡辺さんの髑髏画。

戻橋

京都市上京区中立売通黒門東入役人町237

▽TEL:09059776061

▽営業時間:13時~18時

▽不定休