
「オーブンできれいに層が焼きあがる様子は、芸術性を感じます」
北海道で鍛えたオーナーが営む、クロワッサン専門店。
オルセット・ビアンコ オーナー 古川麻帆
■舌の肥えた土地で自分の腕を試したい。
慎重に、ぶつけぬように。編集Nはうやうやしく持ち帰ってきたクロワッサンを、そうっと袋から取り出した。なんというハンサムな三日月! 中央にエルビス・プレスリーもかくやのリーゼントが、一糸乱れず盛り上がっている。
「竹内力? いや哀川翔か」「むしろウルトラマンを連想させる」。リーゼント談義で盛り上がる編集部員たち。これは作り手に話を聞かねばなるまい。

■「職人として働きたい」、北海道産小麦に魅了される
「クロワッサンの突起ですか? ツノ、あるいは崖って呼んでいます。きれいに立ち上がるのは、バターの層がきちんとできているから。オーブンできれいに層が焼きあがる様子は、芸術性を感じます」。
端正なクロワッサンの作り手は、西陣にある専門店、オルセット・ビアンコの古川麻帆さんだ。しゃきっと伸びた背筋から、迷いのない答えが返ってくる。
現在32歳の古川さんは、大学卒業後システムエンジニアとして働いていたが、父親が転勤した北海道の魅力に触れ、28歳のとき一緒に移住した。
もともと飲食業が好きだった古川さん、旅先のホテルで焼きたてのデニッシュを食べてからパンの可能性に気づく。「職人として長く働きたい」と、北海道で製菓製パンの専門学校に通った。
その地で出会ったのが、北海道産小麦だ。ご存じの通りクロワッサンはフランス生まれ、それゆえフランス産小麦が最上素材と言われる。でも古川さんは北海道産小麦のうまみと香りに魅了された。もちもち感を活かした配合を求めた。
北海道洞爺湖(とうやこ)サミットの舞台となった、ザ・ウインザーホテル洞爺に就職、クロワッサン担当として3年間働いた。
「東京での物産展のイベントに出店して、6日で9千個売り上げました。飛ぶようにクロワッサンが売れて、お客さんの『おいしい』の笑顔を見れたことは、大きな自信になりました」。

■夏は夜明け前から冷房 温度管理ゆえの専門店
自分の店を開こうと、日本全国から直感で選んだのは京都・西陣。パン激戦区の京都、舌の肥えた土地で自分の腕を試したい気持ちがあった。
ハンサムなクロワッサン、その生地は実に気難しい。材料には北海道産の発酵バターを使用。生地の適温は季節で変わり、室温が高いと成形時にバターが生地に吸い込まれて、立体感が失われる。
「夏は夜明け前からクーラーをガンガンにかけて、クロワッサンに合った温度にします。厨房が寒すぎて発酵しないから、他のパンには向かない。だからうちは、クロワッサン専門店なんです」。
開店して半年、手ごたえは上々。ヴィラ九条山のフランス人に「本場よりもおいしい」とほめられ、京都を選んだことは間違っていなかったと確信した。
イケメンな三日月は、京都に着実にファンを増やしている。注目の専門店だ。
(2017年11月10日発行ハンケイ500m vol.40掲載)
オルセット・ビアンコ
▽TEL:0754170515
▽営業時間:10時~18時
▽定休:水、木(不定休あり)

