
「楽しければ、しんどくてもがんばれる。『楽しい仕事しかしんとこ!』って思ってます」
手づくりを追求、家内制手工業を続けるみそ専門店。
加藤みそ 経営者 加藤昌嗣
■蔵の菌にも助けられました。
西陣の一角、路上に響く小学生たちのはしゃぐ声は、昭和の頃から変わらない。路面に向かう工場の奥には、男2人がかりでも抱えられないほど大きさの、木製のみそ樽。創業100年、加藤みそ4代目の経営者は34歳の加藤昌嗣(まさつぐ)さんだ。

■弱冠20歳で家業へ。父のノートを手掛かりに
加藤さんが店を継いだのは弱冠20歳。龍谷大学法学部2回生の2月、冬休みに、父の芳信さんが脳内出血で倒れたのだ。
「行政書士の講座に通っていて、家業を継ぐつもりはなかったんです」。
姉と妹に挟まれた3きょうだいの真ん中。継ぐなら自分しかいないが、今まで一度も店を手伝ったことはない。
母の延子さんに「どうするんや?」と聞かれた。加藤さんは答えた、「やらなしゃーない」。父親の「お客さんに迷惑をかけちゃあかん」との言葉が、胸をよぎったのだ。とりあえず大学は1年休学して、家業に専念することを決めた。
顧客リストには京都屈指の料亭や割烹が並ぶ。初仕事は集金、得意先に足を運んだ。底冷えする繁華街を歩きながら「親父には、こんなふうにして育ててもらったんや」と、かじかむ手を擦った。
同時に、みその仕込みにとりかかる必要があった。唯一の手掛かりは父のノートだ。几帳面な父で、あらゆる配合をきちんと書き留めてあったのは幸いだった。

「加藤みそはなるべく手でやるのが方針。手づくりだから工程がわかりやすい。無我夢中で始めたら、おもしろくなってきた。材料、温度、タイミング。季節でできるものが違う」。
菌の専門家やみそ組合の仲間たちに教えを乞うた。「味が変わった」となじみの顧客から指摘を受けて、配合の違いに気づいたこともある。オートメーション化が主流のこの時代、できる限りの工程を手で行う加藤みそは、業界でも貴重な存在だ。事情を知る誰もが、探求心旺盛な4代目に親身になってくれた。
「みそづくりは菌が命です。蔵についている菌にもずいぶん助けられました」。
■家族と幼なじみで営むスタイルはまさに西陣
店を継いで14年経った今、母と妻、そして幼なじみの南卓也さんとで店を切り盛りする。配達や集金、機械修理は南さん。店舗と発送、ラベル張りは母と妻が担い、みそ作りの担当は加藤さんだ。
「みそはおもしろい。調べだしたらキリがないんです。もうね、『おもしろいことしかしんとこ!』って思ってます。自分が楽しいがまず先にあって、お客さんも楽しければなおよし。仕事って楽しければしんどくてもがんばれる」。
健やかに笑う加藤さん。加藤みその事務所兼応接間には仏壇、床には黒のランドセルが2つ転がっている。仕事と暮らしが連続する家内制手工業。織物でこそないものの、家族と幼なじみで営むスタイルは、まさに西陣の地脈にある。
(2017年11月10日発行ハンケイ500m vol.40掲載)

加藤みそ
▽TEL:0754412642
▽営業時間:8時~18時
▽定休:日、祝

