<出会う>京都のひと

「生地はもちろん、中身もすべて自分でつくる。妻と『手づくりできないなら、つくるのをやめよう』と」

その数60種類! 品揃えが豊富な、小さなパン屋さん。

プラ・ビダ オーナーシェフ 植田陽彦

■僕は、肉体労働がしたかった。

赤いビロードの王冠のように姫リンゴを戴くタルト。石挽の北海道産小麦で焼いたレトロなフランスパン。自家製天然酵母を使ったクロワッサン。ふっくらと輝く山型食パン。オリエンタルな雰囲気の漂うガレット・ゲッペイ…。ずらりと棚を占めるパンは、なんと約60種。

シンプルな店構えに反して、これほど豊かなバリエーションが広がっているとは想像できなかった。いったい、何人の職人を抱えているのですか?

「社員と、2人でつくっています」。

こともなげに話すのはパン職人の植田陽彦さん。知る人ぞ知る樫原で人気のパン屋、プラ・ビダを夫婦で営む。

天然酵母と北海道産小麦を駆使した、 9種の生地から、多種のパンは生まれる。「忙しい時期は朝3時半に出勤して、夜11 時に店を出ます。体力には自信があります」。

■ダイレクトに反応がわかる ものを作り、売る仕事

静岡県裾野市出身の植田さんの実家はケーキ屋だ。大学時代はバックパッカーとして東南アジアやスペインを旅した植田さん。卒業したのち、「サラリーマンをやっておいたほうがいい」という周囲の勧めもあって、広告代理店の営業職として3年間働いた。しかし、体でものをつくる仕事がしたくなり、転職する。

「イタリア料理店で働いたのちに、実家を手伝いました。おしゃれじゃないけど、値ごろで買いやすい。そして基本を大事にしているケーキ屋でした」。

28歳のとき、淡路島出身の妻さちさんとの結婚と独立を視野に入れて、神戸へ移住した。神戸を代表するパンの名店コム・シノワで5年修行し、腕を上げた。他店で4年店長をつとめたのち、39歳、満を持して自分の店を構えた。

「朝早く起きて、酵母から全部自分で手掛けます。つくって、売って、お客さんのダイレクトな反応まで、全部自分で見届けられるのは気持ちがいい。僕は、肉体労働がしたかったんです」。

姫リンゴのタルト。「実家での経験は、こういうパンのヒントになっています」。

■家族の影響や、自身の体験。人生の楽しみが詰まったパン

プラ・ビダのパンは、どれを頬張っても植田さんの体験があふれだす。クロワッサンは、フランスで焼きたてを食べた感激を再現した。カレーパンは、旅先で嗅いだスパイスを取り入れた。カンパーニュはコム・シノワで学んだ。やわらかいクリームパン、中身のカスタードは父親譲りのレシピだ。

そして、パンに入れるミートソース。ベシャメルソース、あんこの具材も手作り。タイカレーは妻のさちさんの担当だ。

「パンの中身は既製品を仕入れる店も多いけれど、妻と『手づくりできないなら、つくるのをやめよう』と話しています。4番目の子どもが生まれたときに国産小麦に切り替えました。子どもたちの影響は大きいですね。できる限りいいものを選び、添加物を使いたくない」。

店名の「プラ・ビダ」は、スペイン語で「人生って素敵ね!」という意味だ。パートナーである最愛の妻と4人の子どもたちの暮らしとともに、人生の楽しみを詰めこんだプラ・ビダのパン。きっとこれからも増え続けていく。

(2018年1月10日発行ハンケイ500m vol.41掲載)

窓際のカウンター席で、自家焙煎のコーヒーとともにパンをどうぞ。「創業5年で、ようやく自分の思っていた形に近づいてきました」。

プラ・ビダ

京都市西京区川島権田町10-10

▽TEL:0753947028

▽営業時間: 7時半~18時半

▽定休:火・水