<出会う>京都のひと

「かしこまってデートする店とはちょっと違う。気取らない居酒屋です」

ゲストハウスのような雰囲気を楽しめる石窯のある居酒屋。

薪火 店主 久世耕嗣

■薪火を囲んで、ひととき語り合う場

入り口脇から空に伸びるシルバーの煙突が目印。木製のドアを開けると、パチパチと薪が爆ぜる音と、温かい炭の香りに心が躍る。カウンターの一角には、マスター手製の石窯。これを使って、ピザをはじめ、ローストビーフに焼き芋、京野菜まで、いろいろなものを焼いて出す。カウンターには焼酎が並び、壁面には外国の写真や沖縄のタペストリー。この無国籍感は、お店の懐の深さの現れだ。

石窯と薪で焼いた料理はじっくり熱が通るので、食材の栄養分も逃さない。揺らめく窯の火はどれだけ見ていても飽きることない癒やしにもなる。

■居心地よかった会社員生活 30歳で独立が夢だった

「おしゃれしてデートで使うような、かしこまった店ではないんです。理想は、ざっくばらんにお客さん同士が仲良くなるような店ですね」。

そう言って人懐っこく笑うのは、マスターの久世耕嗣さん、37歳。

「駅前の店だと、通りすがりのお客さんがどうしても多くなりますが、ここは、住宅地の一角なので、お客さんが定着してくれることが嬉しいです。家族で来られる方も多いですよ」。

久世さんは、琉球大学理学部海洋自然科卒業後、総合食品商社に入社、加工食品の営業を経て、30歳で独立。念願の自分の店・薪火を6年前にオープンした。

「会社の仕事はやりがいもあり、居心地も良かったものの、いつかは独立したいと思っていたので、30歳を区切りとしました。35歳までやってうまくいかなかったらやり直せると思ったからです」。

それ以上、会社員生活を続けて、年をとったときに後悔したくなかったという、しっかり自分を見据えた考え方は、どうやらお父さんの影響らしい。老舗のライブハウスの初代経営者だった父親ゆずりの先見性や独立精神。じつは、石窯導入もお父さんに紹介された陶芸家との出会いがきっかけだった。

「石窯ブームになる前でしたが、ムードを盛り上げるだけでなく、調理器としても優れているので、正解でした」。

ローストビーフは自慢のメニュー。ピザは10 種類ほどある。素ピザが子どもの大人気で、パン代わりに買って帰る主婦も多い。

■6歳年上の奥さんが、しっかり者と太鼓判を押す

「店にはバックパッカーとして旅をした体験が生きているように思います。人との出会いを生かすも殺すもすべて自己責任であることを学びました」。

20歳の頃、バックパッカーとして東南アジアを半年間、旅した。現地で知り合ったチリ人となりゆきで旅して、途中で暴漢と戦ったという武勇伝ももつ。店内の写真の一部(ラオス)は、彼の旅の記録だ。久世さんを支えるのは6歳年上の奥さん・洋子さん。開業したばかりの頃は、彼女も勤めていたときの貯金を切り崩して、一緒に乗り切ってくれたという。ようやく右肩上がりになったのは、3年が過ぎた頃だった。

意外と苦労人の久世さん。その一方で「石窯の色を壁に合わせてクリーム色にするつもりが、ペンキの配合を間違えてピンクにしてしまった」というお茶目な面も。そんな店主と石窯の火に誘われるように、今日もお客さんが集まってくる。

(2018年1月10日発行ハンケイ500m vol.41掲載)

ウッディな店内はカウンターとテーブル席が合わせて17 席。全体的にオープンに語り合える空間だ。

石窯キッチン 薪火

京都市西京区御陵南荒木町7-19

▽TEL:0753937415

▽営業時間:11時半~14時半、17時半~24時(ピザL.O.22時)

▽定休:月、第4日(日・月はランチ営業なし)