
「ギョーザ、ラーメン、チャーハンだけじゃない、本場の中国料理をもっと知ってほしい」
上海仕込みの本格的な味に出会える、中国料理店。
瀘川 店主 深谷信人
■ラー油、ドレッシング、甜麺醤(テンメンジャン)…調味料はすべて手作り
店名「瀘川」の「瀘」は、中国四川省にある地名「瀘州」に由来する。かの地で「瀘水」とは長江へとつながる川の名だ。シェフ・深谷信人さんは「風水では〝水〞がつくと縁起がいい」からと、この名前をつけたのは、いまから12年前。30歳で上海での学びから帰国、ここ樫原を出発点にしたときのことだ。

■上海のお店の厨房に潜り込み、学んだ腕で
亀岡出身の深谷さんは42歳。10代から調理の専門学校で学び、京都のホテル・ホリデーインにあった四川料理の名店、華都飯店に就職した。その後大阪と西宮の店を経て、本場で中華料理の修業をしようと、単身上海に渡った。
「上海のレストランは約40人もの厨師を抱える、大きな規模でした。分業制で、鍋担当だけで12人はいた。『この人は麻婆豆腐だけ』『青菜炒めならこの人』と、ひとりひとり役割が違うんです。観光ビザで入国した僕はその店の従業員ではないからこそ、どの厨師も快く技術を見せてくれた。当初は『ニイハオ』程度しか言葉はわかりませんでしたが、朝から晩まで厨房に張り付いていました」。
このときの話をすると、深谷さんの目は輝き、口元は自然にほころんだ。深谷さんはどこか研究熱心な学徒のような雰囲気があり、現在も、自家製の調味料を日夜、改良し続けているのだという。
ちょっと待って。調味料が自家製? そう、ここ瀘川の調味料は、豆板醤、甜麺醤、豆鼓…すべて手づくりだった。
「ただ辛いだけは好みじゃないんです。肉や野菜のうま味でできた味がいい」。
だからこそ、四川料理の定番の麻婆豆腐も生一本な辛さでなくグラデーションを感じさせる。また、自慢料理であるほうれん草のあっさり炒めは「まずは、何もつけずに塩味で召し上がっていただき、あとからラー油をお好みで」。調味料の特性を熟知した、豊かな発想である。

■12年のあいだに、お客さんと共に作ってきたメニュー
研究熱心な深谷さん、開店当初は本場で学んだからには、現地の味を再現したかった。中華料理といえば「ギョーザ、ラーメン、チャーハン」と思い込んでいる日本人も多い。彼らに本場の味を知ってほしいと意気込んでいた。
「でも実は、開店当時のメニューはいまや半分しか残っていません。お客さんのリクエストにも耳を傾け、徐々にメニューの幅を広げるようになったんです」
現在は、四川料理にこだわらず、さまざまな地域のメニューが混在する。いわば、「お客さんと一緒に出来上がっていったメニュー」であり、ひいては、あっさり炒めのような「和食に近い発想からできた中華」という可能性も開いた。
深谷さんは、樫原産や亀岡産の野菜を積極的に使う。地元産の甘みの深い野菜と、そこに住む人々の声を取り入れた中華料理は、調味料とあわさって、まぎれもない瀘川オリジナルだ。
(2018年1月10日発行ハンケイ500m vol.41掲載)

瀘川
▽TEL:075-757-4504
▽営業時間: 11時~ 14時半、17時~ 21時半
▽定休:水、祝日の場合は翌日

