<出会う>京都のひと

「ひとりで来たお客さんも、ひとりにさせない。必ず、誰かとつながってもらう」

京都で唯一、本場の広島焼きが味わえる専門店。

三好 店主 三好秀之

■これが広島のお好み焼きじゃけん!

戸を開けた途端、目の前が真っ赤に。赤いユニフォームの広島カープの選手のポスターがところ狭しと貼られていた。まるで球場で試合を見るような熱気が店内に充満しているのは、畳一畳くらいの大きさの鉄板で、店主の三好秀之さん、66歳が広島焼きを作り続けているから。ここ「三好」は、京都市内で唯一、本場ものの広島焼きが食べられる店である。

イチ推しは極細麺。2番人気は讃岐うどん。ミックスならどちらも味わえる。太いうどんと極細中華麺のギャップが、食にリズムをつくりだす。

■京都の広島県人が集う店を 脱サラして妻と始める

「これが広島のお好み焼きじゃけん!」。

広島の方言で焼き立てを差し出した。

「広島ふうはあっても、広島焼きはうちだけ」と胸を張る三好さんは、当然ながら広島出身。京都に来たのは20年前。50歳になったとき、脱サラして開店した。

「故郷に帰るよりも、京都にいる同郷人のための広島焼き(広島では「お好み焼き」と呼ぶ)の店を作りたかった」と言い、食材も広島から調達している。従来の中華麺とは違った極細麺がこの店の特徴だ。また、コシの強い讃岐うどん入りもあり、2種の差が楽しめる。

カウンター席のほか、テーブル席と座敷席があり、おひとりさまでもカップルでも団 体様でもOK。

ランチタイムは、三好さんが次々と仕上げる広島焼きを奥さんの美鈴さんとバイトの女性がきびきび運び続けている。夜の時間になると、若い男性がカープのユニフォームを着て働く。とにかく広島色が濃い中で、バイトの女性だけは阪神ファン。でも、彼女もこの店の輪のなかに仲良く収まっているのは、三好さんと奥さんの人柄によるところが大きい。

「食べにくる子どもたちが、高校生になったら『そろそろうちでバイトしない?』と声をかける」と笑う三好さん。ただし、バイトの女性は夜10時以降は働かせないし、夜は家まで送っていくと、まるで自分の娘のように目をかける。

三好自慢の極細麺。

三好さんの生き方をどーんと肯定する妻・美鈴さんは昔を思い出して、くすり。

「脱サラすると聞いたとき、正直、驚きましたが、顔が本気で、反対しても無駄だなとついていきました。私は家でピアノを教えていたのに、いつの間にか店に出ることが多くなって……」。

たっぷりのキャベツともやしが薄地の生地にくるまれてジューシーに。

■キャベツは自分の手で切る。腱鞘炎になったことも

「この仕事に技術は要らない。ただ朝から、仕込みが大変だね。毎日、キャベツを10個くらい切って、腱鞘炎になったこともあるよ。一時期、スライサーを使っていたこともあるけど、やっぱり自分でやったほうが速い。それに、キャベツを切っている時間が、唯一、ぼんやりといろんな考え事ができるんだ。その時間が、ぼくの好きな時間なんだよ」。

と言う三好さん。確かに、鉄板の前はカウンターなので、開店時間は、お客さんとコミュニケーションしながらの作業で、手も口も、笑顔も、休む間がない。

「ひとりで来たお客さんをひとりにさせない。必ず誰かとつながってもらう」。

故郷から遠く離れて働きに出てきた者の気持ちを、三好さんは、きっと誰よりもわかっているのだろう。

(2018年1月10日発行ハンケイ500m vol.41掲載)

のれんをくぐれば、そこは広島ワールド!

三好

京都市西京区樫原中垣外8―1

▽TEL:0753912000

▽営業時間:11時半~14時、17時~22時

▽定休:木、第1水(祝日は営業)