<出会う>京都のひと

「携帯がない時代、酒場に行けば、世代を超えて人と会えた」

大将の漢気(おとこぎ)に酔う、隠れ家的酒肴の場。

松本酒場 店主 松本尚也

■日本酒、神輿。大人の男の嗜み。

大和大路四条下ル二筋目の路地を西へ、スマホのナビと首っ引きでもたどり着けない路地奥(どんつき)にある。おとなの隠れ家のような酒場だ。

「ビジネスだけで考えると、路地奥の店舗なんて商売に不向き。ですが、この一軒家風で着飾らない雰囲気がいい。物件を探しているときに、一目で心に適って即断しました」と松本尚也さん。

宮川町という地の利もあいまって「祇園のようで祇園じゃない感じ。その立地がおもしろい。下町っぽくて、コンパクトで好きなエリアです」と語る。

路地奥にある長屋風店舗。剥き出しの梁にブロックの仕切りなど、実用的で飾らないのにカッコいいのは、これまでいろんな店を訪れたセンスの証か。「『Club Fame』のバックナンバーがほぼ揃って読めるのは、たぶん京都ではうちだけでしょうね」。

■京のタウン誌「Club Fame(クラブフェイム)」(京都CF)からの転身

生まれも育ちも京都西陣。一条通千本東の3代続いた米屋が生家で、正親小学校に通い、野球、陸上とスポーツ一辺倒の少年時代を過ごすが、北嵯峨高校時代に怪我で断念。学生時代はバイトに明け暮れ、夜ごと木屋町で遊び、おとなの社交場に足を踏み入れる。

「まだ携帯もない時代のことで、木屋町に行けば誰かに逢える。人と人とのつながりが大きかった。酒場に行けば、世代を超えて人と知り合えた」。

おとなの男の嗜みを、木屋町の酒席で学んだ松本さん。

「ただ店を知っているだけでなく、名前と顔を覚えてもらって常連客となる。その在り様がカッコいい。店と客とのつながりが密なのが大人のステイタス」。

木屋町で遊んだ延長線上に『Club Fame』(京都CF)がある。タウン誌の先駆けで、時代の注目を集めた媒体だ。京の町でのライヴ感があり、人の輪が基調となった雑誌で京都の一時代をつくった。24歳から約14年間、イベントを企画し情報発信する出版・広告業界に勤めた。そこから一転、酒場の経営者となる。

神輿仲間と微笑む松本さん。

■旨し酒と愉しい対話 神輿(みこし)を担いで地域奉仕

もともと松本さんは「いずれは独立したい」という思いがあった。すべては自己責任、仕込みから調理まで基本的に一人だ。カウンター越しに見る松本さんの所作に、男が男に惚れる魅力がある。

さらに松本さんの骨格をかたどるのに欠かせないのが、御神輿のご奉仕だ。三嶋神社をはじめ、八坂神社、松尾大社、上御霊神社と数社もの大祭に神輿を担ぐ。

「神輿を担ぐことによって、氏子さんの心に触れられ、その神社や地域の歴史を知ることになり、すごく勉強になります」少しでも地域に貢献できればという思いに突き動かされてのこと。祭に参加すること即ち、その季節の到来をキャッチし、旬に敏感になる。

そんな松本さんの感性は、レアな日本酒選びと季節限定の肴に反映している。春先には筍の木の芽焼き、初鰹は欠かせない。備長炭を使った焼物はダイナミックで男の手腕。看板メニューでもある藁炙りは素材の味をグッと引き出す。鯖のへしこは酒呑みの心を鷲づかむ。訪れる人を、カッコよく酔わせてくれる酒場だ。

(2018年3月10日発行ハンケイ500m vol.42掲載)

酒枡に焼かれた店のロゴは、松本さんの実家、米屋の紋をアレンジしたもの。ルーツは受け継がれている。

松本酒場

京都市東山区大和大路通四条下ル1丁目大和町18-18

▽TEL:0755319559

▽営業時間:18時~24時

▽定休:日