<出会う>京都のひと

「父が『自分が美しいとおもったら、それでええんや』と。ものの価値は自分で決めると学びました」

アンティークと、現代の作品が出会うギャラリー。

昂-KYOTO- 店主 永松仁美

■意識しなくても、京都なんよ。

古伊万里を中心に書画や骨董の器などを扱う美術商の長女として、薫陶を受けて育った永松仁美さん。花のようにチャーミングで同性にも愛される永松さんが2008年にオープンした昂-KYOTO-には、彼女のファンが多く訪れる。

フランスのガラス、イギリスのシルバー、北欧諸国の花器など西洋アンティークを中心に、陶芸作家の器や、木工や麻の敷物などを取り扱う。

■京都では、ごく身近な範囲で、洗練されたものが揃う

永松さんが選び抜いた骨董や現代作家による陶芸の数々は、日々の生活を豊かにする。

「2千年経っている神代杉に、ヨーロッパのアンティークの一輪挿しを合わせたり、18世紀はじめのデンマークのお皿とスプーンと、現代陶芸作家の釉薬(ゆうやく)と合わせたり。洋モノと和モノをコーディネートするのが好きです」。

子どもの頃は生き物が大好きで、特に家業に関心があるわけではなかった永松さん。彼女の骨董との出会いは、高校時代、ロンドン留学の際、両親の買い付けに同行したときだった。ヨーロッパのアンティークに魅入られた永松さんは、新門前にお店を構える「ギャラリーグレース」さんで、エナメルのガラスの一輪挿しを買い、自分の部屋を飾ることが喜びとなった。

「500円の美しい鉄でできたオブジェを手に入れ父に見せた時に『値段は関係ない。自分が美しいとおもったら、それでええんや』と。そのものの価値は自分で決めるのだと、改めて父から教わった気がします」。

異なる地で生まれた骨董でも、ギャラリーにあるものは、どこか共鳴している。すべてが永松さんの感じた「美」でつながっているからだろう。

「うちのギャラリーは、西洋のものを包括しながらも京都の雰囲気らしさがあるっていわれますね。特に意識しなくても京都なんよ」。

大学で美術を学び、自分のギャラリーをもったのは10年前。同じ年に最愛の父親を63歳で亡くした。実家の前で小さな店をはじめ、4年前に今の場所に移転した。

自他ともに ファザコンと認める永松さん。ギャラリーの名前も、父に由来する。中央には、オープン3日前に見つけた存在感のある六角形のショーケース。永松さんが愛するピカソの版画も。

■ホンモノを知る。身銭を切り、審美眼を高める。

美しいものが集うギャラリー。永松さんは審美眼を高める方法を「身銭を切ることが一番なんだ」と話す。

「自分がお金を出すなら、へたしたくない。そうしたら勉強する。職人の方に会って専門的なことを教えてもらえば、すべて、自分の知識になります」。

そのひとつの形が、お誂(あつら)えだ。永松さんは、つくることはものの本質を見極める絶好の機会だと考えている。

「京都のすごさってハンケイ500m以内で、お誂えができることにあります。たとえば着物なら、反物の購入、刺繍、お仕立て。しかも高いクオリティー、ハイスピード。これは昔から職人が集まる古都だから。町内の職人で一つのものをつくれるって、素敵だと思いませんか?」

時間と身銭をかけてこそホンモノに近づける。女主人の愛くるしい黒曜石のような瞳が、美を知る誇りでキラリ輝いた。

(2018年3月10日発行ハンケイ500m vol.42掲載)

古いものと新しいものが出会うビビッドな瞬間を演出。

昂 - KYOTO -

京都市東山区祇園町南側581 ZEN2F

▽TEL:0755250805

▽営業時間:12時~18時

▽定休:月・火、不定休あり