
「作品を生かすも殺すも、額次第。その人と対話して選びます」
依頼人の「思い」を封じ込める、額縁専門店。
京額 額縁ソムリエ―ル 岩滝絵美子
■街を見て歩いて、自分の体に入れる
創業は1919年、来年で100周年になる。以前は京都御所の傍に工房を構え、掛軸、屏風、衝立、和額などを手掛けていた―。
そんな歴史を聞いていたから、店頭のオードリー・ヘプバーンの写真が目を惹く、赤い飾り窓が華やかなこの店が京額とわかるまでに一寸時間がかかった1998年に北山への移転を決めたのは、3代目店主の岩滝絵美子さんだ。

■新しもの好きの少女が 世界を闊歩するまで
「子どもの頃は職住一体の生活で、大勢の職人さんと一緒に暮らしていました」。
遅刻しそうだといえば小学校まで職人さんが自転車で送ってくれる、そんな幼少期だった。いつも傍で職人たちの気風とその技に触れながら、岩滝さんは育った。
そして、岩滝さんは物心ついたころから、新しいものに興味がある、好奇心の塊のような女の子だった。
「新しいものを見たら、とにかく見に行く、買いに行く。新奇のものはパワーがあってワクワクするんです」。
先代の父光雄さんもまた、いち早く家業の和額に、洋額を取り入れた人物でもある。「過去を振り返るのはアカンけど、新しいことをするならええ」。先取りの気風が、岩滝家にはあった。

80年代、岩滝さんはパリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークと、アートとフレームの展示会へ出かけ、日本人がいない見本市に買付けに出かけた。海外から額縁を輸入する会社も数えるほどだった。WEBもない時代、新製品を知るためには、自分の足と感性が頼りだった。
「街を見て、いっぱい歩く。陳列のしかた、壁空間の使い方、見て感じて身体に入れる。すべてが勉強になりました」。
マドリッドでは刃物を突き付けられたこともある。周囲の心配はどこ吹く風で、絵美子さんはひとりで世界を闊歩した。
■魅せるコレクション 人生を彩る額装
「アメリカに比べて、日本の額縁需要は20分の1。住空間に自分の好きなものを飾り、写真を並べ、自分史を愉しむのが海外のスタイルです」。
日本でも少しずつ、額装の楽しみ方は浸透している。家族の写真や自作の絵だけではない。母譲りの帯や、子どもが小さい頃に愛用していた靴やおもちゃ。ヘビの抜け殻をもってくる人もいる。額縁に入れるものに制限はない。

「お客様は、大切なものだから額に入れたいと思うのです。ある意味、その人の人生そのもの。だから真剣に向き合う」。
店奥には、岩滝さんの幼少期の写真がいくつも額に入っていて目を惹く。
「中を生かすも殺すも、額の合わせ方次第。どんな縁がふさわしいか、依頼人と対話して、気持ちを額装するのです」。
額に入ったとたん、思い出は魅せるコレクションに変身する。額装とは、私たちの人生を彩る仕事なのだと知った。
(2018年5月10日発行ハンケイ500m vol.43掲載)

京額
▽TEL:0757020003
▽営業時間: 9時30~ 18時30分(土のみ10時~)
▽定休:日、祝(土のみ10時~)

