
「納得いかへんモンは出したくない。スープが悪いときは店閉めたくなる」
本場長崎で修行を積んだ、ちゃんぽん専門店。
尚 店主 石田尚史
■トップ3を倒すまでは京都に帰らない
京都ではめずらしい、本場の長崎ちゃんぽんを提供する店が花園木辻町のバス停を南へ下がったところにある。
白く深いスープは鳥ガラのうまみとコク。細切りにした具材と麺、スープのからまりが絶妙。長崎ちゃんぽんがこんなにおいしい食べ物とは知らなかった。
これほどの味、住宅街の一角にある小ぢんまりした店でありながら、店主の石田尚史さんの作る味を求めて、他府県からもファンが訪れる。
京都で生まれ育った石田さんが、長崎に修業に出たのは、高校卒業直後だ。
「長崎出身の父と母が長崎で食べたちゃんぽん。忘れられない味だったのです」。

■強い意志で長崎へ。母の病にも「戻らない」
そんな縁から、長崎の名店ゑびす飯店を修業先に選んだ。ゑびす飯店には、皿うどん・ちゃんぽん・焼飯と、それぞれの部門トップ3の料理人がいた。
「3人の先輩たちに、『私たちを超えなければ京都には帰さない』と言われて」。
まるでスポ根漫画のような展開に対し、石田さんは鳥羽高時代、水球をやっていたアスリート。その負けん気が厳しい修業に踏ん張りをかけた。
修行4年目で母が大病を患う。親は最愛の一人っ子に京都に帰ってきてほしいと願うが、石田さんは長崎に残った。
「だって、そのとき親は60歳で自分は23歳。『子の人生と親の人生、残りの時間を考えたら、僕の時間も大切やで!』と激しくやりとりしました。修行をムダにしたくなかった」。
同じスープでつくっても、味を一定に保つことは難しい。一生の仕事にするためにブレのない味を体得したとは、まだ自分では思えなかったのだ。しかし時は流れて「石田さんのちゃんぽんで」という指名も付くほど、長崎の常連客の心をつかむ。5年半を過ぎて、いよいよトップ3の先輩たちを追い抜いたと実感した時点を機に、修行の終了を自分で決めた。

■素材を切り、鍋を振る。つくる工程を楽しむ
24歳で京都に戻った。幸い元気に回復した母と父は喜んで、ここ花園の物件を探してくれた。
石田さんは、マイペースで繊細、かつこだわりのある性格だ。店を始めてしばらくして心労から腸閉塞になり、1か月入院した。仕入れの豚の品質が落ちたと感じたときは「閉店を検討するほど」精神的に追い込まれたが、半年かけて鶏ガラベースに変更して切り抜けた。
「納得いかへんモンは出したくないんです。スープが悪いときは店閉めたくなる」。
石田さんはつくる工程を楽しんでいる。かまぼこ、キャベツ、玉ねぎ、モヤシ、キクラゲ、豚肉と、素材の味を引き出すため切り方はすべて変える。大好きな声優、田村ゆかりさんの曲のリズムに乗って鍋を振ると、最高に気分が上がる。
いろんな意味でめずらしい長崎ちゃんぽん。石田さんだけが出せる味である。
(2018年7月10日発行ハンケイ500m vol.44掲載)

尚
▽TEL:0758118938
▽営業時間:11時半~14時半、17時~20時半
▽定休:水

