<出会う>京都のひと

「最近は一流の調理人がレシピ本を出してくれる。師を持たない僕にはありがたい」

太い全粒粉生パスタが人を呼ぶ、花園駅前の人気店。

ぴちぴち金魚 清水弘治

■学ぼうと思えば いくらでも学べる

どっしりした全粒粉の生麺に、濃厚なレバーペーストがからまって溶けていく。パスタの本格的さに「どこぞのオステリア(カジュアルなイタリア料理店)か」と思いきや、店の名は「ぴちぴち金魚」。いったいこの脱力感はなにゆえか?

「大学のとき『将来お店をもったら、どんな名前にしようか』と酒を飲みながら友達と話し合ったことを、いざ店を開こうというときに思い出した。僕、金魚が大好きなんですよ」。

由来を説明するマスターの清水弘治さんは、実に屈託ない。

サラダ、自家製フォカッチャ、パスタ、ドリンクの食べ応えあるランチセット(1200 円)が人気。デザートつきのセット(1600 円)もあり。

■島根、大阪そして京都。学びを重ねて転職

父方と母方の祖父は調理師。その血を継いだか、清水さんも子どもの頃から料理が好きで、調理人を目指しだ。

16歳のときに亡くなった母の「大学だけは出ておきなさい」に従い、追手門学院大学を卒業。その後調理師学校に入り直し、25歳のとき島根のフレンチレストランに就職。29歳で多店舗展開するカフェ「ハーブス」の大阪で働いたのち、31歳で京都・木屋町にあったオープンカフェ「メリーアイランド」に転職。

「島根ではブイヨンの取り方、アミューズ、フランスワインについていろいろ教えてもらいました。大阪のハーブスでは効率と手際を追求し、京都のメリーアイランドでは凝った料理を学びました」。

どの場所でも楽しみながら貪欲に吸収し、納得したら転地する。軽やかな清水さんに修行という言葉は似合わない。

3種あるケーキのうちのひとつガトーショコラにさりげなく、お店のロゴマークの金魚が。絵の得意な妻がデザインした。

■パスタにフォカッチャ 料理の腕がなる

32歳、妻の出身地であるこの地で、自分の店「ぴちぴち金魚」を構えた。当初、目指していたのは喫茶店だ。

「子どものとき、ゲーム台にナポリタン、なんでもある喫茶店が大好きでした。オープンした当初は、メニューにハンバーグとパフェもありました」。

喫茶店を志向しつつも、生来の料理好き、どうしても腕が鳴ってしまう。全粒粉生麺にはじまり、数種類の手作りフォカッチャ。日本のイタリアンを牽引する落合務さんの料理本で見たレシピをアレンジしたソースなど、平凡な喫茶店とは趣を異にする店になっていく。

パスタは生麺。

「かつて調理の世界では、師匠はレシピを教えてくれず、手元を盗み見するのが常識でした。でも今や、一流の調理人がレシピ本を出す時代になり、学ぼうと思えばいくらでも学べます。根性論が苦手な僕にはありがたいです」。

花園駅の目の前、チャイルドシートを積んだ自転車がぎっしり停まり、ママ友たちの笑い声が響く。昼時はいつも2階のテーブル席と1階カウンターが満席だ。

「僕の料理って、カフェと呼ぶには男っぽくて田舎臭い。おしゃれじゃないですけど」と首をかしげる清水さん。カフェでも喫茶店でもオステリアでもなく、「ぴちぴち金魚」。どのジャンルに分類するかは、訪れたあなたが決めてほしい。

(2018年7月10日発行ハンケイ500m vol.44掲載)

靴を脱いであがる2 階席は、絵本や小説などが並ぶ。ついつい長居したくなる。

ぴちぴち金魚

京都市右京区花園寺ノ内町4-8

▽TEL:0758214488

▽営業時間:11時半~20時

▽定休:日