
「よその真似では負けてしまう。個性のあるソースづくりを大切にしてきました」
創業1930年、「香るソース」をつくり続ける。
ツバメ食品 代表取締役 勝田裕、勝田健次
■冷たいトマトにビフテキソースを
京都人で「ツバメソース」を知らぬ者はいるまい。初代、勝田啓二郎氏が「これからは洋食の時代」と志したソースづくり。「創業は1930年(昭和5年)。親父が3代目で4代目が兄貴。私で5代目になります」と、勝田裕さんが歴史を振り返る。

■伝統を守る覚悟。変わらないという決断
「香辛料は薬局にしか売っていなかった時代。初代は一から独学で学んだそうです。時代が進んで甘口のソースが主流になりますが、うちは創業以来、香辛料の『香り』を重視してきました。よその真似事をしていては負けてしまう。個性のあるソースづくりを大切にしています」。
1933年に商標権の係争で商品名変更の憂き目に遭うも、兄弟で手を取り合い伝統を守ってきた。「私は守り続けているだけ」と裕さんは謙遜するが、味の継承は簡単なことではないだろう。「変えない」という強い決断があるのだ。
使用するスパイスは16種。一子相伝で、調合の比率を知るのは裕さんと息子の6代目だけ。驚いたことに、1975年に一度、JASマーク取得のために酸度を上げただけで、基本的なレシピは創業からまったく変えていない。それはつまり、味の本質をついているということ。ブレない姿勢が、多くのファンの心を掴む。

食いしん坊の性(さが)から、ある質問を裕さんにぶつけてみた。家ではどんな食べ方をしているのですか?
すると、「冷たく冷やしたトマトスライスにビフテキソースをかけて食べます」という意外な返答が。ビフテキソースとは、ツバメソース擁する7種のソースのなかでも甘口のウスターソース。ステーキにかけるための専用ソースではなく、「ビフテキのように」高級、という意味で名付けられた。
自宅に戻って早速、試してみたところ、トマトの酸味とソースの旨みの妙味に思わず膝を打った。読者の皆さんもぜひ一度、お試しあれ。

■親から息子へ。つなぐ、味のバトン
なんと、瓶詰めやラベル張りも。「驚かれるのですが、人力でやってます」
工場で迎えてくれたのは、6代目の健治さん。始業は毎朝6時半。大量の香辛料と野菜で「だし」をとるところからソース屋の一日ははじまる。健治さんが工場に入り10年。毎日が修行の日々だ。
裕さんが余談として語ってくれたエピソードがある。それは、昔、大手メーカーがツバメソースの味の再現を試みたというもの。しかし再現は叶わず、その計画は頓挫したそうだ。
工場には身長よりも深い、巨大な鍋が並ぶ。酷暑のなかの仕込みで、きっと疲れているはずなのに。まるで大切な宝物を自慢するように工場を案内してくれた健治さん。その表情を見て、決して誰も真似することができない本当のおいしさの「秘密」を、垣間見た気がした。
(2018年9月10日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

ツバメ食品
▽TEL:0756815796
▽営業時間:8時半~17時
▽定休:土・日・祝

