
「代々続くお米屋さんを守ると約束したから、米粉のスイーツを始めました」
夫唱婦随で営む老舗米穀店のカフェ&アトリエ。
お米屋カフェ・ふぇ~る 経営者 廣瀬弘香、廣瀬敦敏
■竹田街道を芸術の通りにしたい
竹田街道の西側にある、昔ながらの重厚な商家の構えを残す米穀店。その片隅にある「お米屋カフェ」を営むのは、3代目の廣瀬敦敏さんと弘香さん。お互いを思いやる会話を聞いた編集Kは「新婚さんですか?」。いいえ、結婚35年目を迎えるおしどり夫婦だ。

■芸大生、三世代が暮らす京都の商家に嫁ぐ
廣瀬米穀店の3代目である敦敏さんは、家業を継ぐようレールを敷かれていた。そんな敦敏さんに嫁いだのが岡山県出身の弘香さん、出会った当時は19歳、京都造形芸術大学の学生だった。
「主人は、祖父母、父母、姉、妹のいる7人家族。田舎でしあわせに暮らしていた芸大生が、京都の古い商家に嫁ぐなど、苦労を買って出るようなものと、皆に反対されましたが、まるでドラマの『寺内貫太郎一家』のような大家族をオモシロイと思う気持ちが勝っていました」。
着物を粋に着こなし、「おまはんなぁ」と語りかける明治気質のお祖母さんに圧倒されながらも、ポジティブ志向の弘香さんは大家族になじんでいく。7人もの大家族では軋轢(あつれき)が起こらないことはない。足りないところは夫婦でおぎないながら乗り越えてきた。「仲のよい夫婦」と誰もが認める由縁である。
敦敏さんと弘香さんは、祖父母を看取り、父も介護し見送った。弘香さんはまるで昨日のことのように振り返る。
「お父さんが大切に思っているお店で葬儀をとり行い、『米屋の看板は下ろさない』と約束しました」。
とはいえ昔とは違い、食生活が多様化した今、米穀店の経営も変化しつつある。そこで弘香さんは2017年にお米屋カフェをオープンした。「米屋だから、米粉を使ったスイーツを」と軽く思ったところ、その奥深さに目を開かされる。

■個性豊かな町で芸術発信の拠点となる
「米粉といっても多種多様、ケーキをつくるにも、1グラム単位でしっとり感が違う。水分量を調節して、化学の実験のような試行錯誤の日々でした」。
研究の過程で、小麦や卵アレルギーに苦しむ人の重篤さを知る。そして弘香さんは、米粉マイスターの資格を取得する。
「アレルギー体質の方にもおいしく味わってもらえるように、小麦不使用、砂糖だけでなく米麹を使うことも。また、できるだけ無農薬を追究しています」。
さらに、弘香さんには別の顔もある。美大に進むほどの美術好きからトールペイントの出張講師を始めてもうすぐ25年。奥にアトリエを構え、米屋の帳場が画廊を兼ねる。弘香さんは、自分には夢があると目を輝かせた。
「今度、京都市立芸大が崇仁地域にやって来ます。私、ずっと『竹田街道を芸術の通りにしたい』って願ってたんです」。
その夢がかなうとき、仲睦まじい夫婦が営む米穀店のカフェは、きっと人と人をつなぐ場として輝いているだろう。
(2018年9月10日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

お米屋カフェ・ふぇ~る
▽TEL:0756913480
▽営業時間:11時~19時
▽定休:日・祝

