<出会う>京都のひと

「味や食感を保つ麺づくりは、しんどい仕事。だから、息子だけに代々伝える」

人気ラーメン店御用達、中華麺のエキスパート。

近藤製麺工場 経営者 近藤資郎

■味が変わるから防腐剤は入れない

名だたるラーメン店が競合する京都、「近藤製麺」は業務用の製麺業者でありながら、ラーメン通のあいだでは知られた名前だ。創業90年、祖父から秘伝の製法が受け継がれて、54歳の近藤資郎さんが3代目の看板を担っている。

直営店であるラーメン藤の麺が最も細麺。

■強豪ラーメン店が取引先 創業時より変わらぬ商い

創業者は祖父の精一さん。戦前はうどん玉から焼きそば麺まで扱うが、戦後は中華麺一筋に。京都駅前、たかばしの人気店・新福菜館や第一旭をはじめ、全国約200店のラーメン店を顧客にもつ。

「新福菜館さんとは祖父の代、創業当初からのお付き合いです。昔からの長い取引で信頼を大切にしています」。

近藤製麺の特徴は低加水、麺は硬めで長さがある。低加水ゆえに小麦粉の味がストレートに反映され、スープに麺がよくからむ。その分、麺がスープを吸収しやすくなるので、麺の硬さにこだわっている。それゆえ、防腐剤は使用しない。

「防腐剤を入れると柔らかくなるんです。ゴムみたいな麺になるから味が変わる。麺の硬さ、風合い、すべては創業時のまま変えていません」。

防腐剤なしの麺は足が速い。傷みのリスクを回避するため、毎朝できたての麺をラーメン店に配達する。近藤製麺の工場が稼働するのは、朝まだ暗い午前2時。ラーメン店への配達も含めると、午後3時にようやく一通りの業務が終了する。味の堅持のために、汗をかくことを惜しまない姿勢が、強豪ラーメン店に支持される理由に違いない。

工場直売で、一玉120gが57円。140gが59円。麺の種類は太さの違いのみ。わずかな太さの違いが、味に変わる。

■父から息子へ。妥協のない麺づくり

資郎さんは21歳の頃に家業を手伝いはじめた。以降32年この道ひとすじ。母・淳子さんから家督を継いで10年になる。

「はじめは家業を継ごうなんて思ってもいませんでした」という資郎さんは、辻調理師専門学校で中華料理を学び、人気店で料理長代理まで任せられる。忙しい日々を送るなか、二代目の父、満さんから「帰ってきてほしい」と連絡があった。

満さんは製麺工場のかたわら、ラーメンの研究に情熱をそそいだ。

「父は、ラーメンを食べに行っても麺にはまったく手を付けず、スープだけを味見していました。その露骨な食べ方にハラハラしたと母がこぼしていました」。

結果、立ち上げたのがラーメン藤(ふじ)本店。その満さんが資郎さんに直伝したのは、とことんまで妥協のない麺づくりだ。

ラーメン藤のメニューである餃子は、妻・加奈江さんの手製。「ニンニクの皮剥きから手作業です」。1日平均4000個を作る。地方発送も可。

麺の製造工程で小麦粉を練るのは資郎さんの一手にかかる。整然とした工場ながら、麺の製法は一子相伝の秘伝だ。

「厳しいけれど、やはり麺を製造している時が楽しい。一子相伝なんていうと大仰(おおぎょう)ですが、製麺の仕事は細かすぎて誰もが根を上げてしまう。だから逃げだしようのない息子に伝えるしかないんです」。

資郎さんの次代を担う息子の颯(はやて)さんは、現在イタリア料理を修行中だ。将来、パスタの生麺部門が展開するやも知れない。

(2018年9月10日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

工場に積まれた麺の木箱は、20~30年使い込まれた年季の入ったものだ。

近藤製麺工場

京都市南区上鳥羽苗代町10-2

▽TEL:0756912631

▽営業時間:6時~15時

▽定休:木、日の午後