京都の文化を考える

『文化庁移転1周年記念スペシャルトーク』京都の文化の本質と、 次の時代につないでいく伝統のあり方とは。

文化庁が京都に移転して、まもなく1年を迎えます。2023年3月27日の京都庁舎での業務開始に合わせ、京都府、京都市、京都商工会議所などでつくる文化庁京都移転プラットフォーム(現・文化庁連携プラットフォーム)では22年度に「京都の文化を考える」と題し、聖護院八ッ橋総本店の専務取締役・鈴鹿可奈子さん、ふたば書房の代表取締役・洞本昌哉さん、京菓匠 鶴屋𠮷信の代表取締役社長・稲田慎一郎さん、清酒「聚楽第」醸造元 佐々木酒造株式会社の代表取締役・佐々木晃さんによるリレー対談を行いました。

京都の文化は、連綿と受け継がれてきた伝統に根ざす奥深さと、日々進化を続ける多彩な広がりを持っています。府内各地域それぞれの豊かな自然や四季の移ろい、そして、人々の日々の暮らし。そんな京都ならではの風土の上に積み重なった長い時間の中で、多様な文化が生まれ、育まれてきました。京都の生活の中にはさまざまな文化が自然と溶け込み、今に伝えられています。

明治維新以来初の中央省庁の移転である文化庁の京都移転をきっかけとして、生活に根ざした身近で多様な文化に触れ、時代を超えて受け継がれてきた京都の文化の本質と、次の時代につないでいく伝統のあり方を考える。文化庁移転1年の節目にあたり、前回のリレー対談にもご登場いただいた鶴屋𠮷信・稲田慎一郎さんと佐々木酒造株式会社・佐々木晃さん、宇治市で450年以上に渡り茶業を営む上林春松本店・上林春松さん、楽焼の手法で多様な器を生み出している陶芸家・津田友子さんの4人をゲストにお招きし、座談会を行いました。
京都の伝統文化に携わる老舗経営者やアーティストが考える生活に息づいた京都の文化と、これからの時代につなぎたい「京都の心」とは−。

文化庁移転 1周年記念スペシャルトーク
京都の文化の本質と、次の時代につないでいく伝統のあり方について語り合う。

−−文化庁移転1年の節目にあたり、今回は鶴屋𠮷信・稲田慎一郎さん、佐々木酒造株式会社・佐々木晃さん、上林春松本店・上林春松さん、陶芸家・津田友子さんの4人をゲストにお迎えしました。稲田さんと佐々木さんは前回のリレー対談から1年の間、何か変化を感じられることはありましたか?

稲田:京都で開かれるイベントや会合などに都倉俊一・文化庁長官が出向かれ、色々な機会を通じて交流されていますね。私も出身は東京ですが、京都は他にない文化の素地を持っている土地だと感じます。京都の文化の素地の上に、文化庁が移転してきたことでどういう効果が出てくるか。1年を迎え、これからに期待されている部分だと思います。

佐々木:昨年の春以降、インバウンドの観光客が徐々に戻ってきています。佐々木酒造でも通常非公開の酒蔵見学と日本酒の試飲を楽しんでいただく「京都洛中酒蔵ツーリズム」を本格的に始めました。特に欧米の方にたくさん参加頂いています。文化庁の京都移転、またインバウンドの回復もあり、今後ますます盛り上がってくるのかなと思っています。

鶴屋𠮷信・稲田慎一郎さん(右)、佐々木酒造株式会社・佐々木晃さん(左)

−−ありがとうございます。上林春松本店の上林さんは、宇治茶という、まさに京都の風土に根ざした食文化で挑戦を続けておられます。京都の文化をどのように見ていらっしゃいますか?

上林:お茶は元々、薬として飲まれていました。それが時代とともに形を変え、今日につながっています。ペットボトルで本格的なお茶を楽しんでいただけるように開発協力した『綾鷹』も、その意味ではお茶の変化の歴史の一コマなのです。
一方で、急須でお茶をいれたり、家でお抹茶を楽しむといった文化や習慣は薄れています。我々がこれから取り組まなければいけないのは、文化のハードルをどんどん下げて、本質の部分を伝えていくことだと思います。若い世代が「知らない」ことにこそ、逆にチャンスが隠れていると考えています。

−−京都の文化をさらに豊かなものとするために、若い世代が持つ可能性は大きいですね。陶芸家の津田さんは京都の工房で制作に励む傍ら、東京・青山のギャラリーで実際に陶芸作品を手に取って楽しめるイベントに参加していらっしゃるそうですね。

津田:私は作品づくりにあたって、歴史的背景を大切にしています。京都に生まれて、京都で作っているからこそ伝えられる京都の文化。神社仏閣のように暮らしの中で日常的に目にする文化を、作品として自然に表現することを意識しています。若い方たちの中には、たしかに文化に対する距離感みたいなものはあるかもしれません。ですが、生活の中に文化的なものを取り入れたいという意識を持っている方も、たくさんいらっしゃると感じています。
出展している東京のギャラリーでは、陶磁器、ガラス、漆芸など多様な作家の作品を用いて、実際に日本酒やお茶、和菓子を楽しむイベントを定期的に開催されています。毎回、若者がすごくたくさん集まるんですよ。

−−素敵な催しですね。ただ眺めるのではなく、実際に触れて楽しむこと。それが、文化の本質を知る最初の一歩と言えるかもしれませんね。

上林:我々もイベントなどの機会にお茶をいれる実演を行うことがあります。急須でお茶をいれる所作そのものが面白いようで、結構、興味を持っていただく若い方は多いです。我々には見慣れた急須の形状も、若い方たちにとっては「カワイイ」「映える」というように見えるようです。
知っている人にとっては当たり前で特段の魅力を感じていない部分が、知らない方にとっては逆に目新しく、面白いと感じてもらえることも多いです。

稲田:和菓子の世界では、ものづくりの実際のシーンを見せることはこれまで絶対にタブーだったんですよ。そこのお店の秘密ですからね。
うちもインスタグラムなどSNS発信に力を入れていますが、今は裏側まで全部見せています。職人が手で作っている様子も、機械で作っている様子も、何もかも動画で紹介しています。SNSを通して「和菓子って、こうやって作られているんだ」と興味を持たれた若いお客様が、実際にお店に足を運んでくださるようになりました。
文化に触れるというのは、そういうことだと思うんです。分厚い本を手渡して「これが和菓子の文化だ、読んでおけ」ということではない。目で見て動くからこそ伝わるものがある。若い方に興味を持ってもらうにはそれが非常に大事ですね。

佐々木:日本酒のイベントでも、最近は若い世代のお客様が男女問わずたくさん参加してくれます。一方で、日本酒ファンの若い方でも、常日頃から酒屋さんで日本酒を買って家で飲むという習慣は、ほとんどないんです。ここが今後の課題だと思っています。
日本酒の消費量は、国内ではずっと落ち続けています。けれども海外は14年連続で増え続けているんです。それは日本食が世界中で流行していて、日本食レストランで料理とともに日本酒が提供されているからです。和食という文化の中に、日本酒がある。つながっているんですね。
京都の文化もお茶や和菓子、器、日本酒など、それぞれがつながり合い、重なり合って形作っているのだと思います。

上林春松本店・上林春松さん(奥)、陶芸家・津田友子さん(手前)

−−なるほど。京都の文化と、文化を守り伝え、文化に携わるすべての人々の新たなつながりが、文化庁の京都移転を契機に育まれていくことに期待したいですね。

上林:皆さんとこうしてお話して、つながっていくことがとても大事だなと改めて思いました。経験を共有する中で、お互いに役立つ発見が数多くあるはずです。宇治市は京都府南部に位置し、京都市内とも距離感があります。文化庁や行政の力で地域や業種を超えてつながれるきっかけを作って頂ければ、我々も取り組みやすいと感じます。

稲田:1年でこう変わって、2年でこう変わって…と肩肘張って考えずに、どんと構えてゆっくりと地道に取り組んで行けば、自ずから実を結ぶのではないかなと思います。それだけの文化の素地を、京都という土地は圧倒的に持っていますから。

佐々木:「何か目新しいことをしよう」と言うんじゃなしに、普段の生活の中で意識することなく文化を取り入れる。毎日の暮らしにさりげなく息づいているという状態が、一番いいかなという風に思いますね。

津田:私は、京都の文化をつなぐものは茶道だと思うんです。ただお茶を点てるだけじゃなく、茶室の設えや和菓子、陶芸、漆芸など、色々な京都の文化がぎっしり詰まっています。多様な文化が共存している茶道というものを、もっと当たり前の存在として若い世代に伝えていくことが大切だと感じています。

−−生活の中に息づく、京都の多様な文化。そのつながりを大切に、京都から全国、世界へと発信していきたいですね。みなさま、本日はありがとうございました。


上林春松本店・上林春松さん

上林春松本店
代表 第十五代 上林春松さん
京都宇治で創業450年を数える老舗茶舗「上林春松本店」。上林家は江戸時代、茶師の中の最高位である「御物御茶師(ごもつおちゃし)」として幕府御用を務めたことで知られる。コカ・コーラ社と「本物のお茶の味」にこだわり抜いたペットボトル飲料『綾鷹』を開発協力するなど、常に変化を恐れず挑戦を続けている。


鶴屋𠮷信・稲田慎一郎さん

京菓匠 鶴屋𠮷信
代表取締役社長 稲田慎一郎さん
1803年創業の老舗和菓子店「鶴屋𠮷信」の7代目社長。家訓である「ヨキモノヲ創ル」という哲学を大切に、京都の文化が薫る雅な京菓子の伝統を守りながら、様々なコラボレーションなど斬新な商品開発を手掛ける。新しい世代に文化を伝えるため、インスタグラムなどSNSを活用した積極的な情報発信にも力を入れている。


佐々木酒造株式会社・佐々木晃さん

清酒「聚楽第」醸造元 佐々木酒造株式会社
代表取締役 佐々木晃さん
1893年創業の蔵元。京都市にある日本酒の蔵元の中で唯一、洛中に現存する。京都府産の酒造好適米や京都吟醸酵母を用いた日本酒の製造を手掛ける。通常非公開の酒蔵見学や日本酒の飲み比べが楽しめる「京都洛中酒蔵ツーリズム」をはじめ、新たな日本酒ファンを増やすため先駆的な取り組みを展開している。


陶芸家・津田友子さん

陶芸家
津田友子さん
京都で生まれ育ち、21歳の時に陶芸家を志して茶陶楽焼の吉村楽入氏に師事。2003年に京都花園に自身の工房「未央窯」を構え制作に励み、各地で個展を開催。京都ならではの四季の移ろい、自然への敬意と感謝を大切に、楽焼の茶道具にとどまらず皿やオブジェなど、自由で多彩な陶芸作品を生み出している。


【特別コラム 金継ぎを手掛ける漆芸家「urujyu(ウルジュ)」清水愛さん】

「里山の暮らし」が工芸の原点。異文化と伝統が調和する、新しい京都の文化を。

私が生業としている「金継ぎ」は、欠けた器を漆でつなぎ、金銀粉で美しく装飾する日本古来の修繕技法です。2020年に京都府南丹市美山町に家族で移住し、休耕地を活用した漆の植林を始めました。現在は約100本の漆の木を育てています。
漆が掻けるように成長するまで、十数年以上の月日を必要とします。国産漆の不足が指摘されて久しいですが、里山に住み自分の手で漆を育てる暮らしを通して、自然と共生する「里山の暮らし」に日本の工芸の原点があると改めて感じています。
京都は世界中から多くの人が訪れることで、異文化と伝統的な様式の融合が起こる稀有な場所です。外から見た京都のイメージと、私たちが暮らしの中で培ってきた生活文化と思想。新しい京都の文化は、双方が調和することで作られていくのだと思います。


【2022年度のインタビュー記事はこちら】

<京都の文化を考える>vol.1 聖護院八ッ橋総本店の専務取締役・鈴鹿可奈子さん

<京都の文化を考える>vol.2 ふたば書房 代表取締役・洞本昌哉さん

<京都の文化を考える>vol.3 京菓匠 鶴屋𠮷信 代表取締役社長・稲田慎一郎さん

<京都の文化を考える>vol.4 清酒「聚楽第」醸造元 佐々木酒造株式会社 代表取締役・佐々木晃さん


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