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海と川の環境保全を、経済学の観点から考える。「プラスチックごみ研究」のこれから。

vol.9 同志社大学 経済学部 原田禎夫 准教授

私たちの生活のあらゆるところで使われているプラスチック製品。手軽で便利な一方で、廃棄されたプラスチックが深刻な海洋汚染を引き起こしている。そもそも粉末で生活用品に入り込んでいる、また自然環境で劣化し細かな破片となったマイクロプラスチックは自然分解されず、世界的な問題となっている。「海洋プラスチックごみ(以下、プラごみ)のおよそ8割は、陸から川を通じて海に流れ出たものです。川に流れる、私たちの生活から出るプラごみをいかに減らしていくか。私は経済学の観点から、この問題に取り組んでいます」と話す同志社大学経済学部の原田禎夫准教授。原田准教授が思い描く「プラごみ研究」のこれからとは–。

--プラごみが生態系や漁業に与える悪影響は、近年ますます深刻になっています。解決に向けて、どのような取り組みが必要なのでしょうか?

プラごみの大部分は、私たちの生活から出たもの。日本各地の海岸に流れ着くプラごみの多くは、ペットボトル、パンやお菓子の袋など、国内由来の生活ごみです。捨てられるプラごみの管理をしっかり行いつつ、そもそものごみの量を減らすことが重要です。
全国で初めて、レジ袋禁止条例が京都府亀岡市で制定され、2020年7月からは全国でレジ袋が有料化されました。その結果、マイバッグを使用する人が増えたことは大きな前進です。海外ではペットボトル飲料の容器を返却すると代金の一部が返ってくるデポジット(預託金)制度を導入している国も少なくありません。
プラごみを減らしていく仕組み、再利用すると経済的なインセンティブが組み込まれる制度、それらを経済学の観点から考えることが必要です。さらに、その制度を持続可能なものとするため、自分たちの行動でどれだけごみを減らせたか、データで示すことが有効です。多くの人に、プラごみ問題を「自分ごと」として生活の中で意識してもらうことが大切です。

--プラごみの問題は、私たちの生活とつながっているからこそ、私たち自身の意識の変化が求められているのですね。

ペットボトルや食品トレイをはじめ、プラスチックでコーティングされた農業用肥料、学校グラウンドや体育施設などで使われている人工芝、工事現場で用いられる三角コーンが細かくなった破片など、プラごみの種類は多岐に渡ります。
例えば農家や、スポーツを楽しんでいる人は、まさか自分たちが、プラごみの排出源になっていて、世界的な環境問題の原因になっているとは、想像もしないでしょう。最近、「市民科学」という言葉が改めて注目されています。専門の研究者ではなく、市民の皆さんが主体的に調査研究を行い、そこで得られたデータを社会全体で共有していくという科学のあり方です。私たちも地域の方々とともに河川の清掃活動を行ったり、街にあるごみを見つけ、スマホのアプリで記録してもらったりと、地域と共同で調査を行なっています。最初は目に入ってこないごみも、調査を繰り返していくと、参加者が街にあるごみに敏感に気づき出します。市民科学を通じた一人一人の意識の変化が、社会全体を動かすことにつながっていると実感できます。

--川と海、そして、私たちの暮らしとのつながりに目を向けることが、プラごみ問題の解決への第一歩なのですね。

プラごみの問題が深刻化する要因の一つは、私たちの暮らしから川が切り離されてしまっていることだと考えています。川は本来、水遊びを通して自然に触れ、海から遡上する鮎など豊かな恵みをもたらしてくれる存在です。そういった「楽しい」「美味しい」という経験があると、川にあるごみの見え方も変わります。
プラごみをはじめとする環境問題を「自分ごと」として考えるために、私たちの暮らしに近い川を取り戻していくことが大切です。川と人との歴史や文化を知ることをきっかけに、川や海の環境保全への関心を高めていければと思います。

原田禎夫(はらだ・さだお)
同志社大学 経済学部 准教授

京都府亀岡市出身。1998年、同志社大学経済学部卒業。2005年、同志社大学院経済学研究科博士後期課程満期退学、博士(経済学)。大阪商業大学公共学部准教授を経て、2023年4月から同志社大学経済学部准教授。同志社女子大学現代社会学部嘱託講師。保津川の環境保全を通じ、循環型地域社会の実現を目指したまちづくりに取り組むNPO法人「プロジェクト保津川」代表を務める。趣味はスキー。


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