
vol.9 「OLD THINGS MUST GO ON」な京都で巨大なマリオに出迎えられ、中古レコードを掘った話。
千年の都・京都が古いものに溢れているのはご存知の通りだが、一方で「新しいもの」も柔軟に取り入れるところがある。以前、超老舗の扇屋さんが新しくロックなブランドを立ち上げたことを紹介したが、街の旦那衆の粋な遊び風情で新奇なものにも柔軟というのは、なんとも京都らしい。で、今回、取り上げたいのは高島屋。1831年(天保2年)に烏丸松原上ルに創業した呉服屋をルーツとする高島屋は京都の老舗の大店であり、今回、その高島屋が新しく「京都高島屋S.C.(ショッピングセンター)」を作ったという。
高島屋S.C.といえば、東京の二子玉にも前例があるし、ちょっと雰囲気のいい店が集まった感じの施設なのかな、と思いきや、なにやらルーツど真ん中の京都店はサブカル方面にも強烈にしかけているらしい。京都の大店がサブカル? これは気になる…というわけで、一般公開に先駆けて内覧日に招待して頂いたので行ってみた。
まず驚くのは建物入り口の巨大なマリオだ!マリオといえば任天堂、任天堂といえば、こちらも本社は京都。渋谷のパルコにあるNintendoショップには同じフロアに巨大なミュウツーがいるのに驚かされたが、こちらは建物の顔ともいえる「玄関口」で、インパクトと気合がハンパない。
さて、この「京都高島屋S.C.」だが、「百貨店ならではの上質な品揃えとおもてなしに、専門店ゾーン‘T8(ティーエイト)’のエンターテインメント性が加わった」施設なのだという。2000年代までならそれは、欧米の若者向けブランドや雑貨がメインだったと思うが、今回、注目なのはその中の専門店ゾーン「T8」が「アート&カルチャーを発信する館」となっていること。5・6階には蔦屋書店、7階にはNintendo KYOTOというのは「なるほど」な感じもあるが、驚くのは4階で、渋谷でも有名なレコードショップ「Face Records KYOTO」と「まんだらけ」が京都初出店というのだ。
天下の高島屋にユーズドを含むアナログ・ショップが開店、というのは事件だろう。たしかにレコードを求める人間は10代、20代の若者にも増えているし、海外からも「レコードを探しに」熱心なファンが来日し、レコード屋に現れていることは街場の中古レコード屋「100000tアローントコ」のことを書いたvol.6でも触れた。しかし今回は京都のメジャー第一線、というか老舗の大店デパートだ。その一角に真性サブカルチャーともいえるレコ屋ができるということは、我々の営為が認められたような気さえして、何とも嬉しい。
しかも隣は、USEDオタクカルチャーの前線「まんだらけ」なのである。「ここは、中野ブロードウェイ(漫画店や中古レコードショップが密集し、オタクと外国人観光客でにぎわう老舗テナントアーケード)か?」と思わず瞠目する。
とはいえさすがに高島屋。Face Records KYOTOもまんだらけも、ピカピカ感は半端なく、おしゃれ。Face Records KYOTOの店舗はJBLのビンテージスピーカーとMcIntoshのアンプをメインに構築されており、DJブースもあって抜群のクラブ・サウンドが聴こえてくる。この日は、キチっとセレクターがかけていて、80年代ニューウェイヴ、ネイキッド・アイズというマニアックな選曲で、まずは溜飲が下がる。
店内を見渡して、最初に目に飛び込んできたのは山下達郎「FOR YOU」。全て11000円!うう、高い…しかし何枚も同じ値段で売られており、いずれも売れ行き好調なのだという。一方でスネークマン・ショーの「急いで口で吸え」は880円。貴重なYMO曲が入っている盤で、YMO「ソリッド・ステート・サヴァイヴァー」は高いのに、こっちは安い。他を探れば、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」も、笠井紀美子の山下達郎曲の入った貴重盤「トーキョー・スペシャル」も880円!早速、笠井紀美子を抜くことにした。
観察したところ、この店は880円のような均一価格の格安盤が多いことが特徴で、お客はそこに圧倒的な安堵感と探究心を着弾させる。まあ、いってみれば駄菓子屋感覚で知らないアーティストの盤を探せるわけだ(お隣のまんだらけには「100円均一コーナー」が入り口にどどんとあり、諸星大二郎が多数あった。こちらも実にそそられる)。
一方で多くの人にとってはナゾだろうSHOGUNの芳野藤丸のソロ「SAME」が12100円など、マジですか?というものにも出会う。聴いたことないが、12100円といわれると急に体験してみたくなってくる。
このように、お買い得な値段のブツで親しみ、未知のオールド物には大枚もはたく、というのが今どきの楽しみ方なのだろう。
さらには久石譲「もののけ姫サウンドトラック」5280円も。近年ブームのシティポップだけでなくアニメやゲームのサントラなども人気が出てきている。細野晴臣監修「ナムコ・ビデオ・ゲーム・ミュージック」のレコード盤が無造作に安く売られていたので、ゲーム関連のアナログは、これから伸びる分野になるのかもしれない。
なお店内には使いやすい試聴コーナーもあって、店員の視線を気にせず試聴できるのもうれしい。昔のレコード屋では、オヤジに「すみません、聴かせていただけますか?」と深々と頭を下げ、「しょうがないな~」という視線を浴びつつ試聴したものだ…。渋谷店から京都店にやってきたスタッフの飯島さんによれば、京都は貪欲に掘っているディガ-タイプの方が多いという。居合抜きのサムライのように、過去を切り裂いていくDIGGER達、京都にはそんな人材が無数にいるのだろう。
Face Recordsの企業理念は「GOOD REVIVAL COMPANY」。中古盤は確かに「リバイバル」というコンセプトだが、京都は「OLD THINGS MUST GO ON」の街だろう!故きを温ねて新しきを知る・・・というより「古きと新しき、同時にゴーズ・オン!」なのではないか?と思う。応仁の乱さえもまるで昨日のことのように語る、ひたすら時間が連続している場所。
50年前のアルバム、細野晴臣の「HOSONO HOUSE」(1973年)をオマージュしたタイトルの「Harry's House」(2022年)でグラミー賞を獲ってしまったHarry Stylesのように、数十年の音楽の記憶もピチピチに同居して進行する、記憶を活かせてる街。
街の片隅を暖めていた中古レコード屋という概念が、たった今の京都とスパークして、ピカピカの第一線に躍り出た。
※記事中の販売価格は取材当時のものです。
(2023年10月30日配信)
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サエキけんぞう
アーティスト、作詞家、1980年ハルメンズでデビュー、86年パール兄弟で再デビュー、作詞家として、沢田研二、小泉今日子、サディスティック・ミカ・バンド、ムーンライダーズ、モーニング娘。他多数に提供。著書「歯科医のロック」、最新刊『はっぴいえんどの原像』(篠原章との共著)他多数。2003年フランスで『スシ頭の男』でデビュー、2012年「ロックとメディア社会」でミュージックペンクラブ賞受賞。最新刊「エッジィな男、ムッシュかまやつ」(2017年、リットー)。2015年ジョリッツ結成、『ジョリッツ登場』2017年、『ジョリッツ暴発』2018年、16年パール兄弟30周年を迎え再結成、活動本格化。ミニアルバム『馬のように』2018年、『歩きラブ』2019年、『パール玉』2020年を発売。
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