ハンケイ5m

「多様な人が出会い、社会で共に生きる存在だと理解する場所」

セクシュアリティ、年齢、国籍問わず、皆がありのままの存在でいられる場「バザールカフェ」
店長 :小島麗華さん(左)、スタッフ:カシャン久美子さん(右)、しずかさん(中央)

京都市営地下鉄の今出川駅ほど近くに、大きな門を構えた古い洋館がある。開け放たれた門をくぐれば、緑が眩しい庭と広いテラスが広がっている。ヴォーリズ建築の元宣教師館を活用したバザールカフェ。ここでは、穏やかでゆっくりとした特別な時間が流れている。
セクシュアリティや国籍、人種や年齢、当事者と非当事者……。バザールカフェの理念は、あらゆる違いを受け入れてそれぞれの価値観を尊重すること。また、社会の中で共に生きる存在だと、相互に理解し合う場を創出することだ。1998年の開設以来、多様な人たちに開かれた出会いの場として、人と人をつないできたバザールカフェは、日々の営みの中で社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)を実践し続けている。店長の小島麗華さん、運営スタッフのカシャン久美子さん、しずかさんの3人に、バザールカフェが大切にしていること、そして、それぞれの思いを語ってもらった。

−−バザールカフェは、全国的に見てもオンリーワンの場であると思います。携わることになったきっかけを教えてください。

久美子:私は同志社大学に通っていたので、学生時代から建物の存在は知っていました。大学卒業後も、点訳ボランティアや勉強会の場所として借りたり、敷地内に以前あった、タイの少数民族の手作り雑貨店に行ったり。元々、お客としてこの場所がすごく好きでした。
ある時、個人的な事情からしんどい事を抱えるようになり、働く必要が出てきました。他のどこでもなく、バザールカフェで働きたいと思い、「ここで働かせてもらえませんか?」と店長の麗華さんに申し出たんです。広い庭と温もりのある洋館、木製のイスやテーブル。そして、ここに集う多様な人たちが醸し出す空気のすべてが、私に落ち着きを与えてくれました。

しずか:私は、アルコール依存症の治療で京都市内の専門病院に通院していた時に、ソーシャルワーカーの方に紹介してもらったことがきっかけです。アルコール依存と子育てに追われ、地獄のような日々を送っていた時期でした。ソーシャルワーカーの方に「バザールカフェの麗華さんも、アルコール依存症を抱えていて、あなたと生き様が似ていると思う。一度、来てみたらどう?」と誘われて、初めてここを訪れました。
人見知りもあって、麗華さんと初めて会った時はすごく緊張していました。でも、バザールカフェで働くようになってしばらくすると、アルコールも手放せるようになりました。麗華さんたちと一緒にここで働くことを通して、ありのままの自分でいられるようになったと思います。
私はこれまで、自分の両親に否定されることが多く、偽りの自分を作るのがくせになっていたんです。でも、ここでは泣いてもいいし、怒ってもいい。素の自分で居られる場所なんです。

麗華:バザールカフェは最初から、「ありのままの自分でいられる」ことを目指した場です。開設以来、さまざまな事情を抱えながら、ここを居場所として集まって来た方々と歩んできました。「社会の中で、共に生きる存在だと、相互に理解し合う場」という理念を、この場所で実践してきた確かな歴史があるのです。
だからこそ、傷ついて閉ざされた心や、氷のような心であっても、ここに来ると少しずつ溶けていって、自分のありのままの姿を出せるようになります。ここならではの独特の安心感は、誰かが作ったのではなく、この場に集い、出会った人たちによって作り上げられてきたのだと思います。

−−人と人が出会い、つながりを生んできたバザールカフェ。その歴史の積み重ねの中に、人が変わるための不思議な力があると感じます。

久美子:バザールカフェで働くようになって、私は「すごく狭い世界で生きていたんだな」と実感しました。ここで様々な人たちと関わる中で、自分の心が豊かになっていきました。誰しも生活していく中で大変なこと、しんどいことはあるけれど、「バザールカフェとつながっていれば、どうにかなる」と思える。ふわっと包まれるように守られている、そんな安心感があります。

しずか:アルコールに依存していた時は、弟と疎遠だったんです。でも、ここで働くようになってから、弟が「以前のお姉ちゃんは嫌いやったけど、今のお姉ちゃんはめっちゃ好きやで」と言ってくれました。
バザールカフェに来るまでは、引きこもりがちで、子育てのことも一人で悩み、それがストレスになっていたと思います。ここでは、麗華さんやみんなが話を聞いてくれるので、知らないうちにストレスが解消されていくんですよ。
今、ものづくりがとても楽しくて、手作りの鍋敷きなど雑貨を作って販売しています。行く行くは、自分のお店を持ちたいです。そんな自分の新しい一面に気づけたのは、バザールカフェのおかげですね。

麗華:ここに関わっている人たちは、それぞれこの場所に対する想いがあります。これからも多くの人がここに来て出会い、つながってほしい。ここを訪れることで、ありのままの自分に目を向けて、生きる希望を取り戻してほしい。そんな開かれた場としてあり続けたいと思います。
お客さんの中には「おかえり」「ただいま」と言う人もいます。今まで大切にしてきたもの、取り組んできたことを変えることなく、いつ来ても変わらないバザールカフェであること。それを大切にしたいですね。

(2023年7月7日発行 ハンケイ5m vol.8掲載)


バザールカフェ
京都市上京区岡松町258


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