<出会う>京都のひと

「古典を愛する原点には、古い楽器の音色があります」

ヨーロッパのサロンの雰囲気をまとうカフェ。

カフェ・モンタージュ オーナー 高田伸也

■分野を超えて古典を愛する

階段を降りて半地下の店内、突き当りにグランドピアノが鎮座する。ケーキとコーヒーをいただいていると、突如としてクラシックの演奏の練習がはじまった。まるでヨーロッパのサロンのような場がカフェ・モンタージュだ。

「カフェは元々、人が集まる場所でした。発祥の地・ヨーロッパでは、飲食をするだけでなく人々が交流し、そこから音楽をはじめとして、建築、彫刻、絵画、詩。さまざまな芸術が誕生しました」。

そう話すのはカフェ・モンタージュのオーナー、高田伸也さんだ。

「僕自身がヨーロッパに留学に行っていた時も、80代くらいのベテランの音楽家に出会って、いろいろなことを教えてもらったものです」。

座り心地のいい革張りの椅子はどれに座るか迷う。

■18歳から28歳まで道なき道で音楽を学ぶ

高田伸也さんは京都育ち。その経歴はユニークだ。立命館高校を出て東京の録音スタジオで働いた後、19歳から21歳までイギリスでピアノと録音機材に没頭する時間を過ごし、帰国。日本でピアノの調律を学ぶと今度は、24歳から28歳までスイス、オーストリア、ハンガリーで暮らし音楽の勉強をした。定職につかず、道なき道でひたすら学び続けた高田さん、いったい何を追い求めていたのだろうか。

「音楽スタジオでは録音技術、ピアノの演奏と調律。好きなものを探求するあいだは、ひとつひとつのつながりは見えなかった。でも、その原点には、子どもの頃に惹かれた、フルートやピアノなどの音色があると気づいたのです」。 長い歴史のある楽器の音色には人間の感情の根源がある。「シェイクスピアがいなかったら今の演劇はない」と言われるように、今ある芸術はすべて古典に根ざしている。高田さんは分野を超えて古典を愛するのは、芸術の本質に迫りたいからだ。

評判のケーキは、Nowhereman のもの。「食感と香りが口の中で一気にスパークする」と評するのは開店時から働く玉井さん。

■カフェと劇場のハイブリッドで古典の魅力を伝える

4年にわたる欧州での学びを終えて日本に戻った高田さんは、フルートとピアノを修理する仕事を生業にするかたわら、クラシックの演奏会を企画。ついには気軽に演奏会が催せるカフェと劇場のハイブリッドの場を考案。それがモンタージュだ。2012年3月にオープンした。

店内は音がよく響くようにリノベーションを施している。すべては自分の愛する芸術を正しく人に伝えるためだ。

「人は新しい芸術に目を向けがちで、そのルーツにある古典は忘れられやすいもの。録音、調律、修理といった僕の仕事は、古いものをベストの状態で再生するのが役割です。そして、好きなものを追ううちに、その道に長けた人に教えてもらって今の僕がある。僕は、古典を人に伝えていく使命を感じています」。

店に置かれた1905年製のピアノ、1920年代の蓄音機。18世紀のいわゆる古典時代に生まれた、木製のフルート。耳をすませば、私たちにいろいろな物語を語りかけてくる。

(2018年11月12日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

奥まったコーナーの傍らには、ミュシャの描いたサラ・ベルナールの『ハムレット』のポスターが貼ってある。「この場で演劇もやりたい」と高田さんは目を輝かせる。

カフェ・モンタージュ

京都市中京区夷川通馬場東入ル

▽TEL:0757441070

▽営業時間:13時~19時(18時L.O.

▽定休:金、コンサートがある日

▽HP:http://www.cafe-montage.com