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社会に活きる「実学」として、Z世代に向き合う新しい価値観を探る。「マーケティング研究」のこれから。

vol.08 同志社大学 商学部 髙橋広行 教授

買い物はスマホのアプリ、交通手段や旅行はシェアリング・サービスで楽しむー。Z世代を中心に、消費やサービスをめぐる新しい価値観が次々と生まれる中、新たな市場の創造につながるマーケティングの存在感が増している。実務家としての経験を活かしながら、マーケティングの研究に取り組む同志社大学の髙橋広行教授。多分野の企業と共同研究し、学生たちとともに新商品開発に挑む髙橋教授が思い描く「マーケティング研究」のこれからとはー。

--髙橋先生は実務家経験のある研究者として、マーケティングや消費者行動、Z世代をテーマにされています。研究の内容について教えてください。

私は洋菓子メーカーをはじめ、広告会社やコンサルティング会社に勤めた後、研究者を志しました。実務でマーケティングに携わっていた経験があるので、企業の現場が必要としている情報や感覚が分かります。だからこそ、マーケティングを学術的に考えて研究成果をアウトプットする。そうすることで、研究者と企業の良い橋渡しができると考えています。
研究テーマとしているマーケティングは、モノが売れる仕組みを作る学問です。その中でも特に、モノの価値をしっかり考えた上で売り方を考えるブランド構築を専門にしています。

研究や大学のゼミを通して、ファッションブランドや飲料メーカー、生活家電メーカーなど、多分野の企業と共同研究に取り組んでいます。今はスマホの普及やデジタル化の進展により、アプリの履歴データなどから、より細やかに購買者の行動や気持ちを分析できるようになりました。商品やサービスを購入した人が、そのブランドのどういうところに興味を持ったのかということを分析して、消費者の気持ちと行動をつなぐ研究に取り組んでいます。

--髙橋先生のゼミでは、学生たちが発案した企画が、実際に商品化されるケースも多いそうですね。

同志社大学の商学部は、実際の現場の学問である「実学」という考え方を大切にしています。社会と関わり合う中でプラスの貢献をすることに、学問としての「商学」の意味があると思います。ゼミでは共同研究を行う企業の課題に対して、学生たちがチームに分かれて企画を考え、企業に提案しています。
例えば「若い世代にコーヒーをもっと飲んでもらうためにはどうすればいいか?」という課題があるとします。まず最初に大切なのは、課題をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分たちで再定義すること。「コーヒーを飲まない理由」を深掘りし、誰が飲んでいて、誰が飲んでいないのか、市場の分析をしっかりと行った上で解決策を考えることが、すごく大事なんですよ。その分析がなければ、ただのアイデア大会になってしまいます。だからゼミではまず、土台となる分析の部分をしっかりと考え抜くようにしています。

企画提案が形になるまでに100時間ほどかかりますが、この分析が半分くらいの時間を占めています。そこができて初めて「誰に対して、どう売っていくのか」というコンセプトを詰めて行き、その次に「実際にどのように商品展開していくか」を考えます。企業との共同研究では、コンセプトの設計から販売戦略まで商品開発を丸ごと経験することになるので、学生たちにとっても学びが多いです。

--まさに「実学」としての取り組みですね。学生ならではの視点で考えた企画は、企業にとっても価値があると感じます。

身近なテーマでも、「課題」として向き合って改めて考えることは本当に難しいし、大変です。だからこそ、学生たちに課題に本気で取り組んで、その先にある「商品化」という実現のところまで、ぜひ挑戦して欲しいなと思っています。
同志社大学に赴任して9年目になりますが、これまでに「パンに合うカレー」や「防災食リゾット」など、ゼミの学生たちが考案したものが実際に商品化されたケースはたくさんあります。学生たちが競合商品を食べ比べたり、ユーザーインタビューを行ったりと、商品開発までの調査に400時間を費やした商品もあります。マーケティングやブランドを専門にしているゼミだからこそ、高いレベルのアウトプットを達成してほしいと思っています。コンセプトの設計に徹底してこだわり抜き、そこに学生ならではの視点が入ることで、新しいオリジナリティが生まれます。それがまさに、ブランドを作るということだと思います。

--デジタル化が進み、Z世代の消費や購買行動が大きく変わる中、マーケティングがますます重要になってきています。研究者として、これからのマーケティングをどう見られていますか?

SNSで情報が気軽に発信できる今、大手からスタートアップまであらゆる企業でマーケティングを考える必要があると思います。学問としてのマーケティングは、消費者を理解することが大前提です。学生たちはまさにZ世代のど真ん中ですが、今後、Z世代があらゆる商品やサービス、ブランドの入り口となっていきます。彼らのような若い世代の価値観にどう向き合い、寄り添って、理解していくかが重要です。

デジタル化が進み、消費者の行動をデータとして蓄積できるようになりました。ですが、どれだけデータを集めても、理論としてのマーケティングを知らなければ正しい施策を考えることはできません。データと理論をうまく融合し、時代に応じた新しい視点を持つ必要があると思います。
サブスクリプションやシェアリング・サービスなど、デジタル化によって新しい価値観や消費スタイルが登場する中で、モノの価値や消費者の考え方も変化しています。時代や環境によって変わる消費者を理解することは本当に難しいですが、だからこそ、マーケティングの研究に終わりはないと思います。

 

髙橋広行(たかはし・ひろゆき)
同志社大学 商学部 教授

1971年大阪府生まれ。関西学院大学大学院 商学研究科 博士課程 後期課程 修了、博士(商学)。2015年4月より同志社大学 商学部 准教授、20年4月より現職。1級販売士・専門社会調査士。専門はマーケティング(消費者行動論、ブランディング、小売マーケティング)。Z世代インサイト研究所所長を務める。趣味は日本酒と酒蔵巡り、映画鑑賞。


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