サエキけんぞうの京都音楽グラフィティー

vol.07 扇子とロックのコラボレーション

日本は創業100年を超える企業が世界一多い国なんだそうだ。そうした100年企業が、当たり前にゴロゴロありそう、というか実際に歩いているとバンバン見つかるのが京都のすごいところ。そんな京都でもド級の老舗が、なにやらロックな取り組みをしているらしい…そんな噂を聞きつけて、早速、足を運ぶことにした。

伺ったのは老舗の扇屋さん・宮脇賣扇庵(ばいせんあん)。創業は文政6年(1823年)で、なんと今年は創業200年というからマジで「ド級」の老舗といっていいだろう。寺町六角近くの路地に入ると、近世の町屋の店舗そのまま?というお店がどーんと構えている。え?ここで、ロック?…正直、ダマされたかと思ったら、目的地はそのお隣にあるという。さっそく行ってみると、真っ白で超モダン、いわゆるいまどきのアパレル系っぽいお店がそこにはあった。え?これがあの老舗と関係あるの?みれば、確かにディスプレイには扇子がある! お店の名前は「バナナとイエロう」。店名からして老舗とは結びつかないし、「ロックな店舗」ということで、むしろヴェルヴェット・アンダーグラウンドのウォーホルのジャケットを連想させられる(実際、お店の中心にアルバムが飾ってあった!)。シュールさとエロさに何故か京都らしい上品さが入り混じったロゴマークも印象的だ。

この「バナナとイエロう」は、横に並ぶ創業200年の宮脇賣扇庵の若旦那、南忠政さん(5代目宮脇新兵衛の孫で社長)が始めた新しいショップだ。実は南さんは、真面目そうな風采とは裏腹にゴリゴリのロック好き。真面目に老舗商いを続けながらも、密かに「ロックでアバンギャルドなことをやりたい!」と思っており、思い切ってその夢を実現してしまったのがこのお店というわけだ。店名の「バナナ」と「イエロう」には「男性/女性の象徴」のイメージをかぶせているという。つまりnot草食系。そんなプリプリ元気のいい「粋」のイメージは、いまどき薄味のセンスばかりが鼻につく東京のオシャレショップでは、なかなかお目にかかれない。

「すでに扇子は普段から持ち歩くためのアイテムとして確立しているので、いまさら『新しいモノ』として切り出すつもりはなかった」と話す南さん。発信したかったのは、扇子文化の原点を見つめ直し、現代のライフスタイルにふさわしい「新しい扇子のありかた」だ。
新店では、宮脇賣扇庵が創業当初から所有する図案も、現代的なデザインに生まれ変わってラインナップ。また、デザイナー(北川一成)によるメイン商品と、音楽、アートなど様々なジャンルのアーティストとのコラボ展開もスタート。これまでにコラボしたのは画家・大竹伸朗、デザイナーの森永邦彦(ANREALAGE)、皆川明(ミナ ペルホネン)、そしてロック・バンド・GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポー…多彩でエッジィな顔ぶれは確かに「ロック」だ!

扇子のほかにTシャツやトートなどのアイテムも展開。面白いのはTシャツやトートに扇子が入るミニポケットを脇につけていること。扇子が当たり前の日常アイテムになっている京都ならではの生活密着センスがたまらなく愛しい。ちなみに宮脇賣扇庵の作る扇子の芳香を元にしたオリジナルのオードトワレもあって結構人気とか(実際、目の前で年配のご夫婦が買っていかれた)。扇子にふりかければあおぐ度に香りが広がり…こちらも暮しに活きる確かな道具なのである。

扇子の歴史は奈良時代に溯るそうだ。最初は板を束ねて作られたもので、メモ帳代わりにも使われたらしい。そうして1000年以上も愛され続け、江戸末期に宮脇賣扇庵が誕生。三代目が工芸品としての飾り扇を考案し、それが現在に続く隆盛を生んだそうだ。ちなみにお隣にある本店では100年以上も前の扇子もディスプレイされているし、さらに天井には扇子の柄の元となった巨大な日本画も描かれていて壮観。間違いなく歴史の迫力に圧倒される。とはいえ本店に入るのにはちょっと勇気がいるかもしれないが、扇子のお値段は数万円する高価なものもあるけれど、中には3000円というお手頃価格もあるので、ちょっとしたお土産選びにも利用できる。なんと、かのハリウッド俳優はこの店が気に入り、二度も来店して何点も扇子を買って帰ったとか。

さて話を「バナナとイエロう」に戻そう。南社長が仕掛けた最新のアーティスト・コラボは過激なガールズグループASPだ。先日、東京ドーム解散公演も終わらせたBiSHのプロデューサー・渡辺淳之介の事務所WACKが仕掛けるニューフェイスである。先日配信が開始された「I HATE U」は、最新のプログラミングセンスで米オルタナティブをデジ・ロック化。「ガールズグループ=アイドル」と思われがちな日本の感覚を大胆に逆利用するかのような先鋭的な不敵さに満ちている。

ちなみに彼女たちの1stアルバムのタイトルは「ANAL SEX PENiS」(2021年)で、ガールズグループらしからぬ大胆さに驚くが、確かに「バナナとイエロう」にはピッタリかもしれない。4月に出たメジャー1stEP「DELiCiOUS ViCiOUS」に続くツアーを終わらせて、彼女たちとのコラボが始まったという。

コラボについて、メンバーのナ前ナ以は、「全身タイツで撮影させていただいたのが私は印象的で、この気持ちが正解か分からないのですが気持ちよかったです」、リオンタウンは「扇子にお上品なイメージを持っていたんですけど、撮影の時ユメカ・ナウカナ?が足広げて扇子で股を隠していて、今までのイメージが壊れました」と、それぞれに面白いコメントを寄せている。それにしてもガールズグループとコラボすることで、普段扇子に馴染みのない若者たちが関心を持つのは間違いないだろう。考えてみれば、芸術的なのに手元で愛でられて、しかも一日中携帯できる扇子は、スマホで持ち歩ける「ロック音楽」にも似た機動性を持っているのかも。だとしたら、もっともっと若者も気軽に使い倒していい!

 

前面
前面
背面
前面
背面

「店舗のディスプレイも思い切って変えようと思ってるんですよ」と目を輝かせる南さん。「若さは爆発だ!」というロック精神を胸に秘めた南さんの意志は、京都の真ん中で過激な色香ただよう雅な挑戦をし続ける。重厚過ぎる伝統ある本店と不思議に双頭であるところは、そんじょそこらの店では絶対に真似できない芸当。そんな若旦那の挑戦もおおらかに受け止めるのも京都のふところの深さ、というか、遊び心だろうか。


サエキけんぞう

アーティスト、作詞家、1980年ハルメンズでデビュー、86年パール兄弟で再デビュー、作詞家として、沢田研二、小泉今日子、サディスティック・ミカ・バンド、ムーンライダーズ、モーニング娘。他多数に提供。著書「歯科医のロック」、最新刊『はっぴいえんどの原像』(篠原章との共著)他多数。2003年フランスで『スシ頭の男』でデビュー、2012年「ロックとメディア社会」でミュージックペンクラブ賞受賞。最新刊「エッジィな男、ムッシュかまやつ」(2017年、リットー)。2015年ジョリッツ結成、『ジョリッツ登場』2017年、『ジョリッツ暴発』2018年、16年パール兄弟30周年を迎え再結成、活動本格化。ミニアルバム『馬のように』2018年、『歩きラブ』2019年、『パール玉』2020年を発売。
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