祇園祭を支える人々の想い

〈祇園祭2023〉綾傘鉾「棒振り囃子」の美しき迫力 「六斎念仏」の縁がつなぐ『風流』の精神

■綾傘鉾囃子方保存会 会長 山根正廣さん 副会長 原田一樹さん

赤熊(しゃぐま)の毛は燃えるように赤い。顔を真っ白な布で覆い隠し、手には5尺弱(約150センチ)の棒。身に纏う鱗文様の金蘭の法被が艶やかだ。太鼓の音と囃子に合わせて、やがて手にした棒がくるくると回り出す。右へ左へ、上へ下へ。段々と早まる囃子に合わせて自在に棒を操る姿は、独特の存在感を放っている。

34基ある山鉾の中で、もっとも古い形を今に伝える「綾傘鉾」。神輿渡御に先立ち、市中の災厄や疫神を集めて払う『風流』としての山鉾の意義を体現している。巡行で披露される「棒振り囃子」は、華やかさと勇壮さが合わさったダイナミックな所作が見どころだ。

「棒振り囃子」を演じる「綾傘鉾囃子方保存会」は、中京区壬生の郷土芸能団体「壬生六斎念仏講中」が担っている。新撰組ゆかりの壬生は、実は祇園祭の起源に連なる地でもある。「元祇園社」とも呼ばれる梛神社(中京区壬生梛ノ宮町)は、869(貞観11)年に京都に疫病が流行した際、素戔嗚尊(牛頭天王)を勧請して疫病を鎮める祭を行い、その後に八坂神社へ赴いたという古事に由来する。保存会会長の山根正廣さんは「江戸時代に著された『祇園会細記』という書物にも、綾傘鉾と壬生の縁が記されています」と話す。

現在は子どもから70代まで26人の会員が活動している。棒振りの役を務める副会長の原田一樹さんは「僕の父親もずっと保存会で活動しています。子どもの頃から、六斎念仏と棒振り囃子が当たり前に生活の中にありました」と語る。

祇園祭・前祭の宵山期間は、綾傘鉾の会所がある大原神社(下京区善長寺町)の前に会場を設けて、夕刻から棒振り囃子を披露する。原田さんは「保存会の会員は皆、地域の縁で結ばれた者同士。気心が通じる仲だからこそ、阿吽の呼吸で一体となった、棒振り囃子を演じることができます」という。

宵山期間は浴衣姿で素顔のまま演じる。夕闇の中、流れるように軽やかに棒を振る仕草は、圧倒されるほどに美しい。「その時代の感性に響いてこそ、『風流』としての意義があると考えています。『今の風流』を感じてもらうために、毎年、振り付けにアレンジを加えています」。隠れた創意工夫が棒振り囃子の伝統を支え、さらなる魅力を磨き上げている。
(文・龍太郎)

疫病退散を祈る祇園祭。今年は4年ぶりに、新型コロナ前と同じ規模で神輿渡御と山鉾巡行が行われます。待ち望んだ京都の夏、祇園祭の幕開けです。

祇園祭山鉾連合会 理事長 木村幾次郎さん
大正期に山鉾連合会が設立され、今年で百年の節目を迎えます。疫病退散を祈る祇園祭の山鉾は、国の重要有形民俗文化財であり、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。明治の近代化の波の中にあって、山鉾巡行の文化と技術は、町衆たちの情熱によって受け継がれてきました。幾多の人々の想いが詰まった祇園祭の歴史を、これからも変わらずにつないでいきたいと思います。

三社神輿会 代表 近藤浩史さん
神輿渡御は4年ぶりに、通常通りの巡幸路で行います。氏子地域をはじめ、京都三条会商店街にある又旅社にも、待ちに待った神輿がやってきます。賑々しい神輿で皆さんに喜んでいただくために、安全第一に万全を期しています。神輿会や輿丁の世代交代も進む中、次の世代へ「新しい祇園祭」を引き継いでいく年となるよう、気を引き締めて臨みます。

宮本組 組頭 原悟さん
八坂神社の氏子である我々「宮本組」は、御神宝を奉じて祇園祭の3基の神輿に同行します。今年は初めて奉仕ボランティアを募り、想像を超えて多数の応募を頂きました。神輿によって神様が御旅所へ赴く、その有り難さを感じればこそ、昔から人々は手を合わせて祈ってきました。見失ってはならない祇園祭の本義を思い出す契機となるよう、ともに役目を務めたいです。

八坂神社 権禰宜 東條貴史さん
今年の祇園祭は、四条大橋での「神輿洗い」をはじめ、4年ぶりに全ての神事を従来と同様に執り行います。この間の新型コロナ禍にあっては、形を変えて途切れることなく祈りを繋いできました。時代が移りゆく中で、いつまでも変わることない祇園祭の本義こそ「疫病退散の祈り」です。今年はぜひ多くの皆さまに、祇園祭の本義を感じて頂ければと思います。


わたしたちは祇園祭を応援しています