祇園祭を支える人々の想い

〈祇園祭2023〉長刀鉾の舵取り担う「車方」、巡行の見せ場「辻回し」にかける思い

■長刀鉾保存会 車方代表 小田泰久さん

長刀鉾は、やはり特別な存在だ。34基ある山鉾の中で、今も「生稚児」が乗る唯一の鉾であり、祇園祭・前祭(さきまつり)の山鉾巡行で毎年先頭を務める「くじ取らず」として知られる。天に向かってまっすぐ伸びた真木の先に鉾頭の長刀がきらめく姿は、神々しいほどの威風に満ちている。

稚児と禿(かむろ)をはじめ、稚児係、囃子方、屋根方、音頭取りと約50人が乗る長刀鉾は、重さ10トンあまり。これだけの重量を「タマ」と呼ばれる木製の車輪4つで支えている。鉾の舵取りを担う長刀鉾保存会車方代表の小田泰久さんは「鉾にはブレーキもハンドルもありませんから、道具を扱う人間が全てです。タマの癖、その年の気候、路面の状況などを見極め、細心の注意で巡行に臨みます」と語る。

長刀鉾の車方は、20〜70代の総勢20人。車方に加わって今年で23年という小田さんは「最初は見よう見まねで、先輩たちから道具の扱いを教わりました。年に一度の祇園祭なので、毎年の経験の積み重ねが大切です」と話す。
例年、7月10日に「清祓(きよはらい)の儀」を行った後、「鉾建て」が始まる。資材方が用意を整え、部材を運び出すと、建方の振るう木槌の音が四条通に響く。1本の釘も使わない「縄がらみ」という独特の方法は、口伝えで継承されてきた伝統の技だ。「建方と車方はそれぞれ役割が異なりますが、鉾にタマをはめる時だけは一緒になって作業します。この時の一体感は、独特なものですね」。

組み上がった鉾は7月12日の「曳き初め」を経て、17日の前祭・山鉾巡行を迎える。稚児が乗り込み、囃子方の演奏が始まると、音頭取りが三度、「エンヤラヤー」と声を上げる。それを合図に曳き子が綱を引っ張り、小田さんたち車方が「テコ棒」と呼ぶ樫の棒でタマを押せば、鉾はぐらりと揺れて四条通を東へと進み出る。

稚児による「しめ縄切り」の後、いよいよ河原町通に差し掛かると、車方としての見せ場「辻回し」に臨む。囃子の曲も一変、早い調子の賑やかな音色が気持ちを高揚させていく。「心の中で『お稚児さん、力借してください。一所懸命に回します』と思いながら、テコ棒を持つ手に精一杯の力を込めます。無茶苦茶しんどいですけど、無事に巡行を終えた後は、何とも言えない清々しい感動があります」。

携わる人々の幾多の思いを一つにして。京都の夏、祇園祭がいよいよ幕を開ける。
(文・龍太郎)

疫病退散を祈る祇園祭。今年は4年ぶりに、新型コロナ前と同じ規模で神輿渡御と山鉾巡行が行われます。待ち望んだ京都の夏、祇園祭の幕開けです。

祇園祭山鉾連合会 理事長 木村幾次郎さん
大正期に山鉾連合会が設立され、今年で百年の節目を迎えます。疫病退散を祈る祇園祭の山鉾は、国の重要有形民俗文化財であり、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。明治の近代化の波の中にあって、山鉾巡行の文化と技術は、町衆たちの情熱によって受け継がれてきました。幾多の人々の想いが詰まった祇園祭の歴史を、これからも変わらずにつないでいきたいと思います。

三社神輿会 代表 近藤浩史さん
神輿渡御は4年ぶりに、通常通りの巡幸路で行います。氏子地域をはじめ、京都三条会商店街にある又旅社にも、待ちに待った神輿がやってきます。賑々しい神輿で皆さんに喜んでいただくために、安全第一に万全を期しています。神輿会や輿丁の世代交代も進む中、次の世代へ「新しい祇園祭」を引き継いでいく年となるよう、気を引き締めて臨みます。

宮本組 組頭 原悟さん
八坂神社の氏子である我々「宮本組」は、御神宝を奉じて祇園祭の3基の神輿に同行します。今年は初めて奉仕ボランティアを募り、想像を超えて多数の応募を頂きました。神輿によって神様が御旅所へ赴く、その有り難さを感じればこそ、昔から人々は手を合わせて祈ってきました。見失ってはならない祇園祭の本義を思い出す契機となるよう、ともに役目を務めたいです。

八坂神社 権禰宜 東條貴史さん
今年の祇園祭は、四条大橋での「神輿洗い」をはじめ、4年ぶりに全ての神事を従来と同様に執り行います。この間の新型コロナ禍にあっては、形を変えて途切れることなく祈りを繋いできました。時代が移りゆく中で、いつまでも変わることない祇園祭の本義こそ「疫病退散の祈り」です。今年はぜひ多くの皆さまに、祇園祭の本義を感じて頂ければと思います。

 


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