<出会う>京都のひと

「うちは小売、卸し、しゃべりの3本柱の八百屋です」

話上手な店主が出迎える、無農薬野菜の八百屋。
八百屋 一期一会 店主 鋤田隆幸

■モチベーションに火をつける

「一期一会」は、無農薬野菜を取り扱う小さな八百屋。オープンは2018年の秋。まったくの異業種からの起業をした店主の鋤田隆幸さんの選択は、なかなかにしてユニークだ。

生産農家とのコミュニケーションも大切にしている。直接畑に足を運ぶことも多い。

■困難に燃える性格、中国での立ち上げにやりがい

鋤田さんは地元京都の大学卒業後、フリーターの道を選んだ。20代のときすでに、他の人よりも仕事の飲み込みや、コツをつかむのが早い自分に気づいていた。でも同時に、やっかいなのはモチベーションがないと続かない自分の性格だ。アパレル会社や、某大手半導体メーカーに就職しても、すぐ活躍して社内評価を上げる。しかし、その仕事を続けられるかは、自分のモチベーションに火が付くか次第だった。

今まで一番モチベーションが上がったのは、半導体メーカーでの中国工場立ち上げ。「他国では商習慣も、現地の人とのコミュニケーションも違う。困難を乗り越えるのが、めちゃくちゃ楽しくてね」。鋤田さんは、モチベーション全開の自分に気づいた。現場責任者として定年まで中国にいるつもりだったが、会社の経営方針が変わって工場は閉鎖。2016年に帰国。安定するポストでの平凡な日々に満足できず、2年後退職した。

コンセプトは専門店ではなく「近所の八百屋」。地元京都、信州、瀬戸内の野菜が中心で、どれも馴染みのあるものばかり。店舗探しをきっかけに元農協関係者と縁があり、太秦産も店頭に並ぶ。

■話せる、需要がある。八百屋という選択

独立を視野に入れた鋤田さん。自分がなにがいちばん火がつくかを突き詰めた結果が「しゃべり」だった。
「お客さんと対面で接客ができる仕事をしよう!」。小売りのなかでも流行りすたりがなく、いつも一定数の需要がある業種はなにか? 魚屋、肉屋、八百屋の3択に絞った。でも、肉と魚はバックヤードの設備投資に金がかかる。行き着いた解は「八百屋」。場所は映画村からほど近い住宅街で、無農薬・有機の野菜なら競合店がないことも調べた。

「そんなわけで、野菜好きから八百屋になったんではないんです。でも、やるからにはその業種のことを調べつくす。『この野菜がおいしかった』って聞くと、もっとその声が聞きたくなる」。
鋤田さんは客においしさを伝えるために、必ず農家に足を運ぶ。店の名前の「一期一会」は、生産者との関係性を大切にしてきた証。同時に、お客さんとも一期一会。絶対にお客さんを楽しませたい。
「うちは小売、卸し、しゃべりの3本柱の八百屋です。この、葉がまっすぐなキャベツ、めずらしいでしょ? 豚バラ肉をくるくるって巻くだけでロールキャベツ。閉じなくていいし、すごくおいしい」。

思わず買ってみたくなる。口上を聞いているだけでも、おもしろい。
「お客さんが同じ野菜を何度も購入してくれたとき、テンション上がりますね」。
人生半ばで選び取った、八百屋という選択。困難な道こそが、鋤田さんのモチベーションに火を注ぐ。こんなふうな仕事の選び方があってもいいのだ。

(2021年5月14日発行 ハンケイ500m vol.61掲載)

生産者や客との出会いを屋号に込めた。

一期一会

京都市右京区太秦馬塚町18-40
▽TEL:0754327599
▽営業時間:月〜金 9時〜19時 土日祝 10時〜18時
▽定休:水曜、不定休

最寄りバス停は「常磐野小学校前」