<出会う>京都のひと

「駄菓子屋みたいに、記憶に残っている。そんな町のパン屋さんになりたい」

地域密着、生活に寄り添う町のパン屋。
MAIPAN 店主 添野 舞

■おばあちゃんになっても店をやっていたい

19歳のとき、それまでは特に気に留めていなかった「パン」が特別なものになった。きっかけは近所のスーパーの中に入っている、普通のパン屋さんだったそうだ。初めての一人暮らしでホームシックもあったのかもしれない。やわらかな食パン。そのおいしさが身に染みた。

パンは30種ほどで、小麦は国産を中心に。流行りのハード系ではなくやわらかな食感のパンが多い理由は、常連のおじいちゃんおばあちゃんに配慮して。下から時計回りに、チョコと塩バターロール、ベーコンとブロッコリーのタルタルソースPIZZA、ハムたまチーズ、クーベルチュールチョコとチーズクリームぱん、食パンふわもち、一番人気のmaiめろんぱん。

■作った人の“匂い”がする、そんなパンを目指して

今の姿からは想像もつかないが、店主の添野舞さんは元柔道の選手。小中高と柔道漬けの日々を送った。「でも高校の時に、柔道を続けるのがしんどくなって辞めたんです」。
卒業後、「手に職をつけたい」という想いもあり、福知山にある木工の専門学校に通うことにした添野さん。一人暮らしをしながら木工を学ぶかたわら、自然と家でもパンを焼くように。次第に興味の対象は木工からパンに移り、卒業後は大手ベーカリーのバイトを経て社員に。そして、それとは別に民間のパン教室にも通っていたそうだ。仕事でも毎日、パンを作っているのになぜ? と聞くと、「家で焼くパンのほうが、その人の個性が出るから好きです」と舞さん。
「お客さんからも『マイパンにはマイパンの個性があるよね』って」。大手ベーカリーのパンは大量生産が基本。それに対して、家や個人店で焼くパンは数が限られる。それはつまり、誰かの顔を思い浮かべながら焼くパンだ。

「当初はイベントに個人出店していたんですが、工房を構える必要が出てきて。実家からも近いこの場所にしました」。
最初は製造だけのつもりだったが、おのずと漂ってしまうパンの香りに、「買える」と勘違いして訪れるお客さんが後を絶たなかった。そこで販売もすることに。オープンは10年前、それから出産・育児による2年間の休業を経て、2017年の春に復活した。

作り手と客、互いの顔が見える対面販売。

■ちゃんと責任を取りたい。だから、自分で全部やる

最初から最後まで一人でやらないと気が済まないタイプ。だから、営業の前日はいつも徹夜と決まっている。ハードな仕事だが、がんばった分だけ結果がついてくる。作ったものを「おいしい」と言ってもらえることに喜びを感じる。
「全部、自分の手を通って行ったパンだから、責任を取れるんです。お客さんの大切なお金でパンを買ってくれている事実に、きちんと応えたいです」。

たとえば、近所にあった思い出の駄菓子屋のように、名前はよく覚えていなくても、その存在は記憶に残るような町のパン屋さんになりたい。
「そしてできれば、おばあちゃんになるまで店をやっていたいです」。
そんな添野さんが焼くパン。トングでつかむとずしりと重い。おかずパンも手作りの具材がたっぷりで、2個も食べたらお腹いっぱいになる。まっすぐで、それでいて気取りがない。町のパン屋さんは、やっぱりこうじゃないと。

(2021年5月14日発行 ハンケイ500m vol.61掲載)

パンの香りが手招きする。

MAIPAN

京都市右京区太秦青木ヶ原町6-10
▽営業時間:月、金の8時〜14時(売り切れ次第終了)
▽定休:火、水、木、土、日

最寄りバス停は「常磐野小学校前」