<出会う>京都のひと

「手入れをして長く使う靴に美学を感じます」

元陸上選手が営む、靴の修理店。
凛靴 靴修理職人 森裕佑

■「元の靴と同じみたい」と言われたい

三条会商店街、白いなめし革に大書された、迷いのない「靴修理 凛靴」の墨文字が目を引く。店内では履きこまれた革靴がピカピカに磨かれ、忠犬のごとくご主人様のお迎えを待っている。
この店を経営するのは、靴修理職人、森裕佑さん。長身でスタイルのいい彼は元陸上選手だ。

町家を改造した店舗。

■趣味のレザークラフトが革による立体のものづくりへ

1980年生まれ。香川出身の200メートル走者は、スポーツ推薦で京都産業大学経営学部に進学した。国体5位、インカレ5位との華々しい経歴をもつが、その一方でケガひとつで選手生命が終わる危うさも知っていた。
そんな森さんが高校のときから始めていた趣味が、レザークラフトだ。
「ファッション雑誌で見たレザーアクセサリーのブランドに憧れたけど、お金がない。『だったら自分で作ろう』と」。
手先が器用なこともあり、財布やアクセサリーは一通りつくれるようになった。大学卒業後の進路は、革による立体のものづくり、靴に魅かれた。スポーツシューズメーカーへの就職も考えたが、製造はほぼ中国と聞いて断念。神戸の女性用シューズメーカーに就職する。
「ハイヒールのソールを接着剤で圧着しているときに『自分のやりたい靴づくりはこれじゃない』。革を縫って靴を作れる技術が学びたいと思ったんです」。
そこで23歳のときに大阪にある西成製靴塾で、1年間かけてハンドメイドの靴づくりを学ぶ。靴づくりは強度のある立体にするためにレザークラフトでは使わない独特の技法があり、底にラバーなど異なる素材を組み合わせるのも特徴だ。
「履いて痛かったり、履き心地がよかったりと体感できるのがおもしろい。靴は道具です。手入れをして長く使う靴に美学を感じます」。

 

手入れをしながら使い込むことで、ものは美しくなる。センスが光る店内。

■理想の修理を目指して自分の満足を重ねていく

靴のオーダーメイドには現実味を感じなかった森さんだが、「修理はたくさんの人が必要としてくれるし、いろいろな靴が見られておもしろい」。靴修理のチェーン店で働いたあと、27歳で独立した。今や15周年を迎え、森さんの修理の姿勢に共感する5人の従業員を抱える。
職人肌の森さんの理想は、直したかどうかわからないような自然な仕上りの修理だ。「お客さんに『元の靴と同じみたい』と言われたい。材料・修理方法を考えて、より完成度の高い修理がしたい。自己満足かもしれませんが、自分の満足を積み重ねていくことが大事なんです」。
靴の修理に必要なあらゆる素材を揃え、技術を磨く。そんな凛靴には、長年履いたタウンシューズの修理だけではない。スポーツ用やリハビリ用、ありとあらゆる相談が寄せられる。
陸上選手から靴修理職人へ。活躍のフィールドが変わっても、全力で駆け抜ける森さんの姿勢は、変わらない。

(2021年7月9日発行 ハンケイ500m vol.62掲載)

工房にはあらゆる素材が揃う。「靴によって、使うラバーが違います。今は、ランニングシューズの修理を研究中。スポーツの世界でシューズは消耗品が常識ですが、修理という選択肢があってもいいと思うのです」と森さんはにっこり。

凛靴

京都市中京区三条通大宮西入ル上瓦町62
▽TEL:0758212605
▽営業時間:10時~19時
▽定休:木

もよりバス停は「堀川御池」