
「あの頃はとがっていて感性を盗まれる、なんて思っていました(笑)」
店主オリジナルデザインの服を、自分のサイズで作れる服屋。
TRINITAS 代表 佐々木亮太郎
■流行りは関係ない。絶対的にいいと思う服だけを置く
ロール状の生地と業務用ミシンが店内で存在感を放つ。ディスプレイには白い服ばかり、すべてがサンプルだ。客はサンプルを試着し、生地を選ぶ。すると店主は、デザインはそのままで客のサイズに合わせ、完成品を縫い上げる。
こんなスタイルの店、はじめてだ。普通の服屋とは様相が異なる「TRINITAS」、経営するのは大阪出身の佐々木亮太郎さん。店にある服はすべて、佐々木さんによるオリジナルデザインである。

■ファッションとの出会いが後の人生を変えた
このまま大学に行って、就職して。決められたレール通りに生きることにモヤモヤしていた高校時代、友人の誘いで出会ったのが「ファッション」だった。それまでは母親とデパートで選んだ服を着る程度。その時佐々木少年は、自分が着るよりも先に「作りたい!」と衝動的に思った。実は高校は進学校で、得意科目は数学という理系の学生。その反対に「当時、美術の成績は2でした」と笑う。
「一番、影響を受けたデザイナーはアレキサンダー・マックイーンです。服を作ってショーをするためには感性が必要。そのためには美大に進学して、ファッションの感性を学びたいと思いました」。
受験を控えたなかでの方向転換。1年間の浪人を経て、京都造形芸術大学(現在の京都芸術大学)に進学した。在学中には、山口で開催された第4回ジャパン・ファッションコンテストで大賞を受賞。そのうちにショーよりも、自分がデザインした服を売ってみたいと思うようになった。
そんな佐々木さんは、卒業間近になっても、就職しようと思わなかった。「当時は、どこかに就職したら感性を盗まれると思っていました」。
フリーター生活を経て、29歳で独立。当初は一般的な服屋同様に完成品を並べて販売していた。しかし、客は自分の要望を好き勝手に伝えてくる。パターンを増やし続けるのではなく、「絶対的に僕がカッコいいと思う服だけを置こう」。それからはサンプルをもとに、客のサイズに合わせて仕上げる一風変わった服屋になった。現在、客の大半がリピーターだ。

■ショーの経験を生かした唯一無二の服作り
この店に流行りはない。よくよく見ると、身頃はジッパーで取り外し可能な2つのパーツで構成されている。随所に光る凝った仕掛けは、ショー用の服の制作によって培われたものだ。舞台用の服の要素をシティファッションに取り入れるのが佐々木さんらしさだ。
「たまに、月収の20%を費やしても、買いたい服に出会うこともありますよね。そういう服は大切にするし、品質もいいから長持ちする。ファッションって、そういうものであってほしい」。
こんな服屋はそうあるまい。ここに来ると、ファッションが好きで仕方なかった、若き日の感性が刺激される。
(2021年7月9日発行 ハンケイ500m vol.62掲載)

TRINITAS
▽京都市中京区三条通油小路西入ル宗林町82
▽営業時間:月火水金 11時から17時、土日11時から20時
▽定休:木
もよりバス停は「堀川御池」

