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「伝統と革新」が支える、「京都の日本酒」の新たな可能性 1/17開催イベントリポート

今や国内だけでなく、海外でも「SAKE」として人気を集めている日本酒。京都は日本を代表する酒どころとして、長い歴史を持つ多くの酒蔵が魅力的な日本酒を作り続けてきた。京都知恵産業創造の森が運営するオープンイノベーションスペースKOINでは2022年11月から23年1月まで全3回にわたって、「京都の日本酒」の業界の現状を調査。その中から「伝統と革新」の具体例を研究して好事例や将来ビジョンを共有しようと、「伝統革新調査研究プロジェクト 日本酒業界ワークショップ」が開催された。
京都府内の4つの酒造会社をはじめ、大学研究者や学生、酒販店、公的機関など多様な立場の参加者が、京都の日本酒の伝統や地域貢献、さらなる日本酒の可能性を探るため意見交換を行った。ワークショップを通して改めて見えてきた「京都の日本酒」の魅力と、それを支える「伝統と革新」。参加した佐々木酒造、松井酒造、竹野酒造、白糸酒造の4氏らに、ワークショップで感じた「京都の日本酒」の新たな可能性について聞いた。


■「作る努力」に加え、「売る努力」を

佐々木酒造株式会社 代表取締役 佐々木晃氏
同業者の皆さんが集まり、質問に対して皆で答える座談会のような形式だったので、それぞれの視点で捉えた意見に触れることができました。
日本酒の販売量は年々減っており、決して将来を楽観できる状況ではありません。一方で、リキュールの販売は増えています。日本酒の酒蔵でもリキュール製造に取り組んでいますが、リキュール販売が日本酒作りを支えているという一面もあります。
これまで、「おいしい日本酒を作ろう」という点では非常に頑張ってきて、本当に美味しい日本酒を作っているという自負がありました。ただ、職人的にこだわり抜いたマニアックなお酒を作るだけでは、なかなか一般の消費者には受け入れられません。言い換えれば、今まで「作る努力」はしてきたけれど、「売る努力」はしてきていなかったと言えるかもしれません。
これまでに受け継いできた伝統を次に渡すことが、自分に課せられた最大の役割だと思っています。そのために、守るところは守り、変えるべきところは変えることが大切だと考えています。

■思考停止せず、「エモーショナルなお酒作り」目指す


松井酒造株式会社 代表取締役社長 十五代 松井治右衛門氏

「若者の日本酒離れ」ということがよく言われます。僕が若者だった頃から言われているので、最近は「おじさんも日本酒離れ」している現状があるのではないか、と感じています。だからこそ、「日本酒って面白いかも」と思ってもらえる、「エモーショナルなお酒作り」を目指していきたいと考えています。
今回参加したKOINのイベントでは、同業である酒蔵の方や飲食店、酒販店の方など、様々な立場で日本酒に関わっている皆さんの意見を聞くことができました。
学生さんが実施されたアンケートなど若い世代の生の声に触れ、「若い世代の方は、こういう選び方をするんだな」と感じ取ることができ、大変貴重な機会でした。
良い日本酒を作り、それを飲んだお客様に美味しいと思っていただき、また購買につなげていく。それが我々の目的だと思っています。そのために、手段はどんどん変わっていくべきです。
良いものを作るための手段は、時代によって色々あると思います。「伝統」という言葉の前で思考停止にならず、追求し続けたいと思います。

■「伝統」の酒造りを土台に、「進取」に挑戦

竹野酒造有限会社 代表取締役 行待佳平氏
酒造りが何千年も続いてきたということ、それ自体が革新の歴史だと思っています。時代は常に変化し、その中で絶えず革新と変革を繰り返したことで現在があると考えています。ただし、時代の変化とともに、革新のスピードも年々加速していると感じています。
伝統とは言うなれば、酒造りの「土台」です。どんな時代でも、土台である伝統を疎かにすることがなければ、革新を繰り返すことが可能だと思っています。つまり、伝統の酒造りを土台として発展させながら、全く新しい、過去になかったものをつくることに挑戦することが大切だと考えています。
同じものを量産化しても、全体のπ(パイ)は大きくなりません。今までにないジャンルの商品づくりに現在進行形で挑戦し、伝統の技術を土台として、進取のものを作り上げること。それが、これからの日本酒の発展につながると考えています。

■日本酒のキャラクター、わかりやすく伝えたい


白糸酒造株式会社 代表取締役(代理) 宮崎美帆氏

私どもは宮津市に酒蔵があります。普段は京都市など他の地域の先輩方にお目にかかることがなく、今回はとても良い機会になりました。
私はどちらかと言うと、作り手よりも売り手の立場で日本酒に関わっています。消費者の方にとっての「日本酒への扉」を開くのが、自分たちの役割だと思っています。
作り手さんたちはこだわり抜いて、本当に美味しいお酒を作ってくださっています。そのこだわりや品質の良さ、何に特化しているのかなど、それぞれの日本酒のキャラクターを正しく伝えることが大切だと思います。ワインのように「肉料理は赤、魚料理は白」といったわかりやすい表現を、日本酒も見習う必要があるかも知れません。
普段日本酒を飲まない方にとって、お酒を選ぶ時に見た目はものすごく大事な要素になっていると感じています。「ラベルが可愛い」「名前がかっこいい」という理由で購入されるお客様も数多くいらっしゃいます。より多くの皆さんにとって日本酒の良さをわかりやすく伝えていくために、これからも工夫や努力を続けていきたいです。

■つながり生む場、伝統の活性化の鍵に
京都橘大学経営学部准教授の丸山一芳氏(中央)と、ゼミ生の渡辺史香さん(左)、宮上尚士さん(右)


京都橘大学 経営学部 准教授 丸山一芳氏

今回のイベントが行われたKOINは、京都発の起業家やベンチャー企業を増やそうという目的があります。大学生を含めて多様な人たちが集まり、ゴールを設定せずに自由に意見を言い合える。まさに今回の日本酒業界ワークショップのような場を作り出すことが、イノベーションを考える上で重要な意味を持つと思います。
今回のイベントを通して、学生たちが日本酒の酒蔵や酒販店の方々とつながることができました。その中で、実際に酒蔵を見学させていただいたり、次は新商品の企画を考えてみたいという希望をもったりと、新しい変化が生まれています。
若い人たちにとって伝統や文化は敷居が高く、ともすれば敬遠されがちです。だからこそ、実際に話を聞き、日本酒を飲んでみるという生きた体験は、伝統や文化を身近な存在として考えるきっかけになります。今回発表した日本酒に関する学内アンケートも、学生たち自身が企画しました。ワークショップを通して、学生たちが日本酒を「自分ごと」として捉える視点を持てたからこそだと感じています。
今後もKOINを起点として、京都の中に広いつながりを生み出すような取り組みを継続していければと思います。そのような場を増やすことが、京都の伝統を活性化する鍵になるはずです。

京都橘大学 経営学部 渡辺史香さん

私たちのゼミは全体で約20人の学生が在籍しています。3つのグループに分かれていて、私たちが所属している日本酒のグループは今回のイベントをきっかけに発足しました。
大学では社会人の方々と関わる機会は少ないので、アンケート結果を発表する時はとても緊張しました。でも、今回の経験がこれからの人生に役立っていくのかなと思い、すごく貴重な経験をさせてもらえたと感じています。
KOINは四条室町という交通アクセスの良い場所にあるので、今後も自習などで使ってみたいなと思いました。

京都橘大学 経営学部 宮上尚士さん

今回の日本酒の企画で、初めてKOINを利用しました。色々な人たちが行き交っていて、すごく新しい場所だと感じました。
私は兵庫県伊丹市の出身です。子どもの頃から酒蔵に工場見学に行ったり、元から日本酒に親しみがありました。今回、酒蔵の方々をはじめ、実際に日本酒造りや販売の現場で働いている方々の様々な意見を聞けたのは、自分にとって大きい経験となりました。

■日本酒の本質、若い世代に発信したい


株式会社カタルシス 山本周雅さん

私たちが運営している「語り×Café&BAR Katharsis(カタルシス)」は、学生が主体となったバーです。今回のKOINのイベントで知ったゆずやヨーグルト、みかんの風味を生かした日本酒のリキュールに興味を持ちました。これまで日本酒を使ってカクテルを作るという発想はありませんでしたが、このリキュールを生かせば、若者にも好まれるカクテルを発信できるのではないかと思い付きました。
リキュールを入り口に、次はロックグラスで日本酒を楽しんでみたりと、日本酒を楽しむ新しい提案につなげてみたいですね。
「若者のお酒離れ」と言われていますが、文化や伝統の本質に魅力を感じる若い人は増えています。そういう若い人を対象に、日本酒の作り手とも連携して伝統や文化のストーリーを伝えることで、おいしさを言葉にして提供できれば、新しい変化を生み出せるかもしれません。
伝統を残すだけでなく、どう継承して、伝えていくか。若い世代も一緒になって挑戦することに意味があると思います。


【伝統革新調査研究プロジェクト 日本酒業界ワークショップ概要】
運営:一般社団法人京都知恵産業創造の森、中小企業診断士 大井義雄
参加者:佐々木酒造、松井酒造、竹野酒造、白糸酒造、京都橘大学 経営学部 准教授 丸山一芳氏と学生数名、酒販店、京都府、京都市、京都市産業技術研究所、ジェトロ京都、他

・第1回テーマ:「我が家の家訓」について
・第2回テーマ:地域を発展させるために、貢献できること、夢。継承のための取組
・第3回テーマ:伝統と革新

▽KOIN(Kyoto Open Innovation Network)
京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町78番地 京都経済センター3階
HP→https://open.kyoto/

KOIN(Kyoto Open Innovation Network)は、新しい一歩を踏み出す人のための「共創の場」です。事業を始めたい、広げたい、応援したい。そんな新しい挑戦を応援するため、フィールドや時代を超え、“京都の知恵と技術”が集まる場所です。ミーティングはもちろん、自身の想いやアイデアを発信したり、自由に活用できます。さまざまなワークショップやイベントも随時開催中です!

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