<出会う>京都のひと

「定番のカルボナーラも、ようやくこの年でわかってきました」

パスタが人気、世代を超えて愛される喫茶店。

トラモント オーナー 渡部 拓

■味の「バラつき」は、探求心の裏返し

「本格的」という人と「日によって味がバラつく」という人と。ここまできれいに感想が分かれる店も珍しい。

二条寺町の南東角にはためく、3色のイタリア国旗。みっちりと並ぶ自転車を横目にビルの通路を進むと、床や天井に染み付いた芳しいソースの香りが「おいで」と手招きする。

メニューはアンティパストとプリモピアット、ドルチェの3 部構成。熱烈なファンも多いジェノベーゼ1,200 円( 大盛り)、キノコマリネ550 円、鳥の内臓煮込み800 円。

■創業時は「調理経験なし」自分がおいしいかが大事

「店名はイタリア語で『山に日が沈む』を意味する『トラモンターレ』という動詞の名詞形です。語感が気に入って」。

マスターの渡部拓さんは御年76歳。出身は山形県で、大阪万博が終わる頃までは英語の通訳として世界中を飛び回った国際派だ。縁あって京都に居を移し、「これまで動き回った分、落ち着いて何かをしたい」と、当時はまだめずらしかったエスプレッソのある喫茶店「トラモント」をオープンさせた。1981年の秋のことだ。

喫茶店の空間で本格的なパスタ。このギャップがまたいい。

それから32年、現在は美味しいパスタが食べられる店として、トラモントは京都の街に根ざしている。常連客はそれぞれに贔屓(ひいき)の皿があり、また「買い物ついでに家族でよく食べにきた」など、思い出と共に語られることも多い。そんなわけで、「創業時はなんの調理経験もなかった」という渡部さんの告白には、編集部一同、大いに仰天した。

「誰かに教わったこともないので、作り方にこだわりはありません。僕が食べて美味しいと思えるかどうかが大事。有名シェフたちの料理本を見ながら自分なりに研究して、今に至ります。

オイルにトマト、そしてクリーム系。多彩なパスタの調理はすべて渡辺さんが担当。時間はかかるが、そこはご愛嬌。

■好奇心を持って いいものは取り入れる

温和な口調の渡部さん、話を聞けば聞くほどに、これがなかなかの凝り性。常にアンテナを張り、東京にうまいイタリアンがあると聞けば遠征することも。昔、店で働いていたイタリア人スタッフとともに訪問したカプリ島のレストランでヒントを得て、誕生したパスタもある。美食家からも「本格」と讃えられる所以(ゆえん)は、どうやらこのあたりにありそうだ。

「5年経ったら5年の味、10年経ったら10年の味。オープンから定番のカルボナーラもこの年になって、ようやくわかってきました。シンプルなパスタこそ進化がよくわかりますね。ペペロンチーニなんて、100回作ったら100回味が違うから」。

常連の好み、また種類によって麺の茹で加減も微妙に変化させる。味の「バラつき」は、今なお枯れることのない探求心の裏返し。冒頭のふたつの評価の感想を聞くと「逆に、『どこにでもある味わい』と言われるようになったら潮時かな」とにやりと笑った。

本日のランチタイムも満員御礼。喫茶店仕様の小さなキッチンで、黙々とフライパンを振る渡部さん。その横顔は喫茶店のマスターではなく、まぎれもない料理人そのものだった。

(2018年11月12日発行ハンケイ500m vol.46掲載)

トラモント

京都市中京区二条通寺町東入ル榎木町97

▽TEL:0752561917

▽営業時間:11時~ 16時、18時~20時半

▽定休:水、日