<出会う>京都のひと

「好きなことだけをして、生活したい。究極のわがままのために、努力は惜しまない」

1階は手造りのドライフラワー専門店、2階はカフェ。
Cachette オーナー 石川遼

■片っ端から好きなことをやろう

天井を埋め尽くしたドライフラワー、乾いた花が見せる造形のおもしろさ、アンティーク調の風合いに目を奪われる。異空間のような1階をくぐりぬけて、2階に上がるとそこはカフェ。エルダーフラワーと呼ばれるハーブを使った、美麗なるカクテルが供される。
なんともおしゃれなこの店を経営するのは、32歳の石川遼さん。同姓同名のプロゴルファーと甲乙つけがたい好青年ながら「北山で美容師をしながら、この店を開きました」という「攻め」の姿勢に、編集部はぐっと引き込まれた。

店名のCachetteには「隠れ家」という意味がある。北山の美容室も、ここ北白川のカフェも同じ名前だ。「どんな業種にも展開できるように名付けました」。

■自分らしく努力を重ね26歳で自分の店を開く

石川さんの実家は、今回のバス停のすぐ近く。子どもの頃からものを作ったり、絵を描いたりするのが好きで、「将来は自分の店をもちたい」と思った。時計職人、家具職人、美容師、カフェの経営。ノートにいくつもの職業を書き出した。
「『好きなことだけをして生活したい』が夢でした。究極のわがままのために努力を惜しむつもりはありませんでした」。
片っ端から好きなことをやろう、まずは美容師だ、と心に定めた翌日から、美容院でのバイトを探し、現場で学び始めた。ヘアスタイルが変わると、お客さんが素敵になって喜ばれる。美容師が性に合っていることに気づいた。

昼間も働くために通信制高校を選んだが「もう少し学生生活を楽しんでもいいかも」と思い直し、18歳で鴨沂(おうき)高校の定時制に入学。卒業後は伝統校、京都理容美容専修学校に進学し、コンテストで研鑚を重ね、美容師の免許を得た。
以降、2店の美容院での勤務を経て、26歳のときに念願の自分の美容院を構えた。完全予約制にしたのは、予約のない時間を次の夢に充てたかったから。すなわちカフェの経営だ。ドライフラワーと組み合わせて唯一無二の店にする構想は、時間をかけて着実に温めていた。

花をあしらった美しいレアチーズケーキ600円。ゼリーやフルーツがいっぱいのゼリーポンチAya 彩850円。

■ドライフラワーとカフェ その道のトップを目指す

「ドライフラワーの専門店はまだ少ないから、おもしろいかなと。水分量をうまく調整すれば、チューリップもドライフラワーにできる。意外でしょう?」。
やると決めたからには研究を重ねた。花屋で売れ残った生花が材料だと、質のいいドライフラワーができない。石川さんによれば、美しいドライフラワーを作るためには、鮮度と花ぶり、摘み取り時期を選ぶ必要があるそうだ。
「カフェだけならもっとすごい店もある。けれど、ドライフラワー×カフェという組み合わせなら個性的で、その道のトップになれるのかなと」。

「片っ端から好きなことをやる」という石川さんの夢は、まだ始まったばかり。美容室とカフェの次も、リストは並んでいる。「オンラインかリアルかはわからないけど、いずれは商店街をつくりたい」と野望を温める石川さん。もう、「Cachette」から目が離せない。

店にほんのりとただよう心地よい香りは、天然のドライフラワーによる。アロマを焚いているわけではない。このショップはドライフラワーの工房も兼ねる。

Cachette

京都市左京区一乗寺樋ノ口町8-2
▽営業時間:11時〜19時
▽定休:水

(2021年3月12日発行 ハンケイ500m vol.60掲載)

最寄りバス停は「一乗寺木ノ本町」