
vol.04 京都のライブは霊とセッション UrBANGUILD(あばんぎるど)
この夏は二人パール兄弟でツアーをしたので、今回はそのことを書いておきたいと思う。
二人パール兄弟とは、4人組のバンドのパール兄弟から派生したもので、僕の歌と、窪田晴男のギターだけのミニマムなユニット。4人で奏でるはずのバンドサウンドを、なんと窪田がギター1本で再現してしまうという究極のセットでもある。
実はこの窪田の奏でる音というのが曲者で、かつて坂本龍一さんの世界ツアーにも参加した経験もある窪田の腕は一級品なのだが、サウンド自体が非常に繊細で、会場によって全く響きが変わってしまうのだ。今回のツアーは神戸・京都・名古屋と回ったのだが、やはり三者三様。神戸は松本隆さんの行きつけの店としても有名な老舗ジャズ喫茶の「木馬」で、洋風でハイカラな作りの店内と神戸の街角の風情が溶け合ったしっとりしたライブとなった。名古屋の気のおけないライブハウス「K.D ハポン」では、電車のゴトゴトとした音もまるごと楽しむ、明るいお祭り的なライブとなった。その中日が京都。このライブは、いろいろと生涯忘れられないものになった。
会場は「UrBANGUILD(あばんぎるど)」。常に人が賑わう木屋町通、中心部にある「ニュー京都ビル」はサブカル好きなら小躍りしそうなレトロでちょっぴり「妖しいビルディング」だ。その3階にある会場に、入ってまず驚いたのは、その天井の高さ! ザックリとした木板の壁は音が良いし(アートな絵が描かれている)、バーカウンターや厨房の感じやフロアの木の長テーブルもいい感じ。まるでニューヨークの街場の店に迷い込んだような気がした。
お店を作ったのは元々京都三条にあるカフェ「café Independants」(アンデパンダン)をやっていた人たちで、表現する人の場を作りたいという思いのもと、2006年にオープンしたのだという。天井が高いのは、3階と4階をぶち抜いて作られたからで、かつては30数軒のスナックなどの店がそこにはあったのだとか。立ち上げ時は大工である、オーナーの次郎さんが中心となり、資本金ゼロで、スタッフ自ら廃材から内装を作り上げたという。ちなみに「UrBANGUILD」の肩書きはライブハウスではなく「多角的アートスペース」。なので僕らのようなライブだけでなく、演劇、コンテンポラリーダンスなど、柔軟な発想で幅広いイベントを行っているそうだ。いろいろ京都の人ならではの「ワイルドなこだわり」を感じてしまう。
実はこの場所を知ったきっかけは、音楽仲間であるギタリストの山本精一さんのライブをココでみたからだ(2021年)。人力クラブ・サウンドバンド「ROVO」でのプレイも素晴らしいが、その日に見た山本さんのバンドは、勢いあるハードな「アバンギャルド」な感覚満載で、「やっぱり京都はロックの故郷だ!」と思わせる内容だった。こういうスペースでいつか二人パール兄弟をやってみたいと思っていたら(実は再開発で東京からはアンダーグラウンドな会場がほとんど消えてしまっている)、なんだかありがたいご縁が重なって、そのUrBANGUILDで山本精一さんが対バンしてくださることになったのだ。
さて、当日の話。エフェクターをグルっと円状に並べてつなぐ山本さんのセッティングに興味津々だった窪田は、セッティング中の山本さんをニコニコと見守り、その姿はなんだか「蚤の市で商品を並べる店主とその店先をひやかすダンナ」のようだとスタッフの間でも話題だった。ギタリスト同士が無言でお互いの技をぶつけあっている間、僕は裏の楽屋へ。ステージ裏は、遠い昔に取り壊した体育館の裏手のような場所だった。
実は僕はこの日のライブに一計を案じていた。会場のある木屋町といえば、かつて様々な荒っぽい歴史的な事件が起こってきた場所でもある。そんな場所には荒っぽい霊も集まっていることだろう。そこでしばらく封印していた「往復ビンタ」という曲を1曲目にブツけて、霊たちに喜んでもらおうと思ったのだ。
「俺の心の中には花と龍がいる
何もかも捨てた時、残った魂
片道切符 握りしめて
ボロボロに燃え尽きていた」
とツブヤキから絶唱して始まる歌詞(桜井鉄太郎:詞)は、渡世を渡る本物のハグレ者の心が描かれているのだ。この時のために、透明なほどに真っ白な布マスクも用意し、ステージではそれを付けたまま歌い始めることにした(その姿はスタッフにも見せておらず、結構みんなビビったらしい)。
問題はステージ開始直後に起きた。
「俺の心の中には太陽なんてない
絶望と挫折の果て、すさんだ魂」
上からのスポット・ライトを手で覆い、人生に背かれた男の崖っぷちの気持ちを表現しながら叫んだその時、全館の照明が全て消えた!真っ暗になったのだ!幸いなことにギターのアンプは切れず、ボーカルとエレキ・ギター・サウンドだけは響き渡ったままだった。これまでもステージ上での事件は数々体験したが、場内が完全に真っ暗になったのは初めてのこと。会場には非常灯もなく、かつてステージ上で体験したことのない「闇」に襲われたのだった。しかし、ギターの窪田も僕もプロである。 「これがこの店流の演出なのか?」と思い、一つのアトラクションのように捉えて奏で歌い続けた。
「俺の身内になれ
同じ涙流せ
往復ビンタを喰らえ
愛してるぜ」
この曲のサビでは往復ビンタをお客さんにする(マネをする)のが恒例なのだが、これもなんとか暗闇の中、手探りで行った。すると、客席奥から、一筋のライトが当てられた。闇に浮かび上がる、お客さんに往復ビンタをするヤバイ人…だが、助かった!後からわかったことだが、このライトは感電の危険も顧みず、山本精一さんが手持ちで、PA卓の電灯をステージに向けてくれたものだった(本当にありがとうございました)。
そして異様なテンションの中、曲を歌い終えた。すると!! 何事もなかったように場内の電気が復活した。あとで店の人に聞いた話では、曲中に必死で復旧作業を試みたが全くダメだったのに、曲の終わりで、特になんのきっかけも理由もなく、いきなり電気が復活したのだという…。えええ????
木屋町の霊達を沸かせてやろうという僕の軽はずみな企みに対して、霊達が面白がって応えてくれたというのだろうか?
もし窪田と僕がビビったら、ステージは1曲目からボロボロにされたのかもしれない。もしかして僕らは魂を試されたのだろうか?
京都木屋町・・・恐るべし!
その日のステージのラストは、ルー・リードの「I'm waiting for the man」を山本精一ユニットとセッションした。窪田はクールで正確なリズムギターにミニマルに弾き続け、山本さんは咆哮のように雷鳴するギターを奏で続け、昇天したかのようにギターを鳴らし終えた。あまりにもクールに、クールに盛り上がり果てた、木屋町UrBANGUILDの一夜だった。
京都にはホントに、神様とはまた違うような、何かがいる。
何かがある!
そんなことを確信した夜だった。
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サエキけんぞう
アーティスト、作詞家、1980年ハルメンズでデビュー、86年パール兄弟で再デビュー、作詞家として、沢田研二、小泉今日子、サディスティック・ミカ・バンド、ムーンライダーズ、モーニング娘。他多数に提供。著書「歯科医のロック」他多数。2003年フランスで『スシ頭の男』でデビュー、2012年「ロックとメディア社会」でミュージックペンクラブ賞受賞。最新刊「エッジィな男、ムッシュかまやつ」(2017年、リットー)。2015年ジョリッツ結成、『ジョリッツ登場』2017年、『ジョリッツ暴発』2018年、16年パール兄弟30周年を迎え再結成、活動本格化。ミニアルバム『馬のように』2018年、『歩きラブ』2019年、『パール玉』2020年を発売。
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