京都の文化を考える

文化と伝統を継承するために、「変わる勇気」を。200年以上続く「京菓子」老舗の哲学。

<京都の文化を考える>Vol.3 京菓匠 鶴屋𠮷信 代表取締役社長 稲田慎一郎さん

令和5年3月27日に文化庁の京都移転を迎えるにあたり、改めて京都の街に息づく多様な文化に触れてみたい。リレー対談『京都の文化を考える』第3回のテーマは「京菓子」。1803(享和3)年創業の老舗「鶴屋𠮷信」の代表取締役社長・稲田慎一郎さんとともに、京菓子が受け継いできた文化と、これからの伝統のあり方について考えます。
(写真は左から京都府文化政策室・小泉慶治さん、鶴屋𠮷信 代表取締役社長・稲田慎一郎さん)

−−江戸時代の創業から200年以上続く「鶴屋𠮷信」さんは、まさに「京都の伝統」を体現されている老舗です。長い歴史がある「京菓子」は、和の文化を象徴する存在と言えます。改めて、京都の文化をどのように捉えていらっしゃいますか?

稲田:福井の小浜から出てきた初代が、御所のそばにあった禁裏御用菓子屋の一つ「二口屋」で修行した後、堀川今出川の近くに店を構えたのが「鶴屋𠮷信」の始まりです。僕で7代目になります。
京都の文化の一番の特徴は、平安時代の宮中文化に端を発するものが、今も色濃く残っている点だと思います。新年に茶道の初釜でいただく花びら餅をはじめ、もともと宮中で行われていたことが庶民にも伝わって、生活の中に文化が広まったと思います。
京都は古くから神社仏閣も多く、歴史的な背景があります。そして何よりも、茶道の三千家をはじめとする家元制度がしっかりと根付いています。
そういった京都ならではの文化が培われているからこそ、京都の和菓子を指して特に「京菓子」と言っていただける所以なのだと思います。小さな菓子の中に歴史や季節の移ろいを感じる物語が込められているのが、「京菓子」という文化と言えるかもしれません。

−−時代を超えて歴史を積み重ねている、京都ならではの文化が「京菓子」の中に息づいているのですね。さまざまな価値観やライフスタイルが大きく変化している今こそ、伝統と文化を継承することの意味に目を向けたいです。

稲田:「鶴屋𠮷信」では、「京都のことを、もう一度学んでみよう」と、会社として京都検定の受検に取り組んでいます。これまでに約100人の従業員が京都検定に合格しました。私は趣味で自転車に乗るんですが、京都検定の勉強を兼ねて、京都の史跡や神社仏閣など約300箇所を実際に見て周りました。
春の桜の花びらの一枚一枚の色合い、踊りや歌舞伎の着物と帯の色合わせの中に、和菓子作りに通じるものを感じます。実物を見て、本物に触れることで、京都の文化を形作るものをより一層身近に感じることができると思います。

−−文化庁の京都移転をきっかけとして、京都に息づく日本文化を、広く世界へ発信していくために。京都の老舗の哲学に学び、伝統を踏まえた、新たな挑戦へと踏み出したいと思います。

稲田:変化の激しい時代に合うように、相応しいものへと変わる勇気を持たなければ、どんな素晴らしい文化でも廃れていってしまうと思います。伝統を継承していくには、全てを変えるくらいの覚悟と勇気を持つことが必要だと思っています。
菓子作りにおいても、変化を否定するのではなく、変化を受け入れた上で、和菓子は何をお客様に提案できるのかを大切に考えています。
京都の歴史や文化を知り、それを新しい時代にどう活用していくのか。京都から世界へ文化を伝えるために、そのことがまさに今問われているのだと思います。


地元・京都で活動、活躍されている方を中心に、「あなたにとって『文化』とは?」を聞きました。

■カメラマン 辻 正美
文化とは、自由と平和の象徴であり、世相のバロメーターのようなもの。

■兼業ミュージシャン 福島 明彦
人が人らしく生きるために必要不可欠なもの。

■フリーライター 長尾 葉子
「もっと良い世界を作ろう」と頑張る人たちのエネルギーが重なったもの。美味しいお饅頭ひとつにも文化を感じます。


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