<出会う>京都のひと

「キャベツを切るのは開店直前から。早くに切ると、アクが出て黒くなる」

学生や働く人、庶民の味方のお好み焼き屋。

ふくい オーナー 城崎以知子

■たっぷり食べてほしいからお好み焼き

編集長Eが今号のバス停を五条壬生川に選んだのは、ここ、ふくいを取材したかったのが理由のひとつだ。Eがまだ園児だった頃、母とまだ存命の祖母、3人でしばしば訪れた。頬張った牛肉のお好み焼きは幸せそのものの味がした。

近年は入店待ちの行列に圧倒されて最近ご無沙汰ぎみだったEは、ふくいの「変わらなさ」に驚いた。ソースの香りに、祖母の記憶がよみがえる。

「当時、お好み焼きを焼いていたのは、母ですね。96歳で他界したけれど、生きていたら106歳になります」。

キャベツを機械に入れる手を止めて、城崎以知子さんは教えてくれた。

お好み焼きはサクサクでふわっとした食感に、キャベツがたっぷり。素材のよさを生かしたやさしい味に、何十年も通い続ける常連客多し。

■母が始めた店をきょうだいが手伝う

城崎以知子さんの母、福井千代さんがふくいを始めたのは1967年、51歳のとき。当初は、近くのヤサカタクシーの運転手らに菓子やたばこを売る店だった。

「もっと、おなかにたまるものが食べたい」というお客さんのリクエストに応じてお好み焼きを出し始めたところ大好評、専門店になった。

近くには龍谷大学がある。ワンルームマンションが普及していない時代、龍谷大学の学生の下宿先は寺だった。銭湯帰りの学生がよく立ち寄ったという。

「母は太っ腹な人でした。お金を持ってない学生さんにはちょっと多めに盛ることも。みんなにたっぷり食べてほしいから、お好み焼きにしたんです」。

以知子さんをはじめとしたきょうだいの誰かが、おのおのの生活事情に合わせて、つねに母を手伝ってきた。千代さん亡き今、以知子さんが中心となってふくいを続けている。

焼きそば。鉄板の上に麺を広げ、カリカリになるまで時間をかけて焼いてから、キャベツを投入。食感の組み合わせがまたとない。

■材料を厳選、細かな配慮。味と人情を引き継ぐ

鉄板イカ焼きを頼んで驚いた。盆いっぱいに盛られたキャベツとイカ。なんとも豪快! 目の前の鉄板で炒められ、しんなりと甘みが出たキャベツに、ぷりんとしたゲソが弾ける。絶妙だ。

「ふくいで食べたらおいしかったのに、家で自分でイカ焼きをつくったらおいしくないっていうお客さんもいます」と以知子さん。それもそのはず、イカは石川県能登半島の小木(おぎ)から、キャベツは長野か愛知、やわらかいものを取り寄せる。焼くラードも上等品の選りすぐり。さらに下ごしらえに配慮を重ねる。

キャベツは、やわらかく味のしっかりしたものをと長野産か愛知産を使う。

「イカ焼きに使うのは、キャベツの葉先だけ。あと、キャベツを切るのは毎日だいたい開店直前から。早くに切ると、アクが出て黒くなるからね」。

ふくいでは千代さんの作り方を守り続ける。そんな以知子さんにとって、かつての客の訪問が、最もうれしい。

「『何十年ぶりかに来たら店があった!』と大喜びする人を見ると、『ちょっとでも長く店を続けよう』と思うんです」。

以知子さんが受け継いだのは、味だけではない。母千代さんの人情味だ。ふくいが「変わらない」理由はここにあった。

(2019年1月10日発行ハンケイ500m掲載)

ふくいの外観。アルバイトには龍大の留学生3人が入る。「近くに寮があるから。ベトナムの味とは違うけれど、ソースがおいしい」とファムさん。

ふくい

京都市下京区五条壬生川東入ル北側五中堂櫛笥町7

▽TEL:0758417374

▽営業時間:16時~23時(L.O.22時30分)

▽定休:火、第2・第3月(月祝の場合は営業)

※2020年5月31日で閉店予定。