ファッショナブルな生き方

「仲間と一緒に舞台に立てることが、何より楽しいんです」

40代からミュージカル演劇をはじめた稲田久美子さん

「自分らしく」ファッショナブルなあの人は、いつだって心踊る瞬間を楽しんでいる。自分が夢中になれることを大切にすれば、人生の時間はきっと、ますます豊かに広がっていく。
40代でミュージカル演劇と出会って以来、劇団で女性俳優として活動している稲田久美子さん。演劇をきっかけに年齢も仕事も異なるさまざまな仲間と出会い、新しい世界を知った。「クラブ活動みたいな感じですが、舞台での一体感がとにかく楽しい」。年齢を重ねたからこそ見えてきた演劇の楽しみが、稲田さんの毎日をカラフルに彩っている。

演劇の舞台に立つ稲田さん(左)

大阪府東大阪市で生まれ育った稲田さん。子どもの頃に「心臓に先天的な疾患がある」と診断され、医師から「運動を控えるように」と告げられる。もともと本が好きだったこともあり、小学生の頃から毎日のように図書館に通った。「ランドセルの中は、教科書より図書館の本が多いくらい。小説などの文学作品が特に好きでした」と振り返る。
それでも、思い切り体を動かして運動したいという気持ちは根強かった。「父がスポーツ好きだったので、テニスや水泳を教えてもらったり。高校では『プレイング・マネージャー』ということで、バスケットボール部で活動していました」。自分の限界にとらわれることなく、一歩ずつ、人生の可能性を広げていった。

短大の文学専攻を卒業後は、商社に就職。秘書として働く一方で、労働組合の婦人部長としても奮闘したが、妊娠・出産を機に退職することを決めた。かつての医者に「出産の時、君をとるか、赤ちゃんをとるか、ということになるかもしれない」と言われていた。人生を賭した選択だった。
24歳で無事に長女を出産し、さらにその後、双子を授かった。3人の子育てをしながら、パートタイムで仕事を再開。独学でパソコンの操作を学び、簿記の資格も取得する。育児と仕事の両立というハードワークにも、「せっかく与えて頂いた機会。期待以上の結果を出したい」と精一杯に取り組んだ。

ミュージカル演劇との出会いは、子育ても落ち着いた48歳の時のこと。ふと目にした新聞の1面広告に、とある公演の案内を見つけた。「演劇初心者の50歳以上の人たちが俳優となって、ミュージカル演劇を大阪で上演する」と記されていた。「私もやってみたいな、と思ったんです。それで劇団に電話して『48歳ですけど、いけますか?』と聞いたら、『とりあえず稽古場に来てください』と言われて…」。

見学に訪ねた稽古場では、50代から80代までの劇団員が和気藹々と練習していた。迷わず参加することを決める。以来20年以上に渡って、NPO法人として演劇活動を行う「発起塾」で歌やダンスに励んでいる。劇団に入った最初の頃は「恥ずかしくて、家族には内緒だった」という稲田さん。初めての公演の時に演劇のことを伝え、家族を招待した。

「みんな、びっくり仰天してました(笑)。でも舞台を終えた後、娘が『お母さんのあんな笑顔、初めて見た』と涙を流してくれたんです。それまでは演劇なんて見たこともなかった夫も『楽しそうにやってて、舞台で目立っていたで』と言ってくれて。それからは、誘うと一緒にきてくれるようになり、夫婦の世界も広がりました」。

次の公演では、ジプシーダンスを取り入れた舞台に挑戦する。「年齢を重ねて、体が動かなかったり、セリフが抜けてしまうこともあるんです(笑)。けれど、みんなすごく楽しんでいる。そういう中で一緒に演劇をできることが、何より楽しいんです」。
それぞれに人生経験を積み重ねてきた、個性的な仲間と一緒に作り上げる舞台。稲田さんにとって、自分らしく輝くかけがえのない瞬間だ。

▽シニアミュージカル発起塾HPはこちら(※外部リンク)http://www.hokkijuku.net/


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