<出会う>京都のひと

「リベラルなおじいちゃんになりたいと思っています」

選曲のセンスが光る中古レコード屋。

エンゲルスガール 下司浩

■過去があって今がある

五条壬生川にこんな美しい路地があるなんて知らなかった。モダンな木造平屋が小さく並ぶ。まるで、ひとつのコミュニティのような長屋の一角に、エンゲルスガールはある。

音楽関連のほか、学生運動に関連した書籍もさり気なく。

■京都で学生運動に身を投じた青春時代

ハンチング帽がお似合いの主人の名は下司浩さん。御年65歳である。

「小学校の頃からレコード屋に通うのが趣味で、店の人に頼んで聴いてました。初めて触れた洋楽は小5の時でビートルズ。卒業文集にも、将来はレコード屋になりたいって書いていましたね」。

大阪・十三にある老舗の銭湯「宝湯」の長男として誕生。本来なら跡取りとしての人生を歩むはず……だったのだが。

大阪出身の下司さんと京都との縁は古く、高校生の時から。

「実は、18歳の頃から学生運動に参加していて。京都では主に机を積んでいました(笑)。まぁ、ワイワイ騒いでいたということで勘弁して下さい」。

ジャズから小沢健二まで。細かなジャンル分けはせず、あえてランダムに。「趣味で置いているから普通のレコード屋みたいに本気で選ばれると恥ずかしくって」。こぢんまりとしたショップゆえ主人との距離も近い。

ついには高校を卒業というカタチで追い出され、学生運動に身を捧げるも21歳の時にヘルメットを脱いだ。

時代はベトナム戦争の最中。これほどまで運動に傾倒した理由は「イデオロギーよりも正義感でした。若かったからでしょうね。今は、リベラルなおじいちゃんになりたいと思っています」。

1年のリハビリを経て、京都の山科郵便局に就職することに。郵便局では労働組合の運動に取り組み「仕事は片手間でやってた」と笑う。

「でも民営化で、それまではひげモジャのTシャツ姿でも働ける天国だったのに、職場の雰囲気が変わってしまって。なんだか合わなくなってきたんですね。それで、53歳の時に辞めて店を始めました」。

奥のカフェスペースを使用して生ライブも。ライブ情報はTwitter( @ ENGELS_GIRL) で随時告知。

■大切なのは「志」 損得じゃない

「売り上げ? ひどいよ。日本一の赤字店じゃないかな。それを売りにしようかと思うぐらいよ、ハハッ」。

下司さんが言うには「店ではなく個人NPO法人」。レコードとCD、本や雑貨を扱うが、購入した金額よりも安い値段で販売することもあるため、赤字になる。それでも採算度外視を貫く理由は?

「学生運動の経験がなかったら、こうはなってなかったかもなぁ。損得ばかりじゃないことを若い人に知って欲しい。志が一番大事。お金は二の次です」。

商品のセレクトは作り手の志が感じられるかどうかが肝だ。不定期で開催されるライブにおいても「音楽はすごくいいのに、なぜか売れない人ばかり。でもアーティストつながりでどんどん輪が広がっていってて。それが楽しくてやめられないんですよね」。

ヘルメットがハンチング帽になった今、「過去があって今の自分がある」と当時を振り返る下司さん。穏やかに語るその姿は、最終目標とする「リベラルなおじいちゃん」そのものなのであった。

(2019年1月10日発行ハンケイ500m掲載)

来年4 月で12 周年。味のある佇まい。

エンゲルスガール

京都府京都市下京区中堂寺櫛笥町5-24

▽TEL:0758228006

▽営業時間:14時~19時

▽不定休