
「本場の味というより、僕が食べてきた韓国の家庭の味です」
若き夫婦が営むコリアンダイニング。
アヤン オーナー イ・ヒョクジュ、西村綾乃
■今の時代の韓国家庭料理
「隣のムジャラさんにはすごい行列。このあたりは人気店や新しい店が多いから、流れに乗りたいと思って」。
今年の4月1日にオープンしたアヤン。見てすぐわかる韓国料理屋は多いなか、アヤンのたたずまいはまるでカフェ。一見では韓国料理とわからない。接客担当の西村綾乃さんは、京都生まれの滋賀育ち。そのかたわらで微笑むのが、韓国のチェジュ島出身で料理担当のイ・ヒョクジュさん。ふたりは夫婦である。

■ふたりが出会い、日本で暮らすまで
高校時代に夢中になったK-PОP。なかでも東方神起のユチョンの大ファンだったという綾乃さん。
「結構な追っかけです。韓国には月に1回。でも25歳の時に解散のニュースを聞き、会えないなら韓国に住もうと」。
クールビューティーな雰囲気からは想像がつかない情熱。「親には語学留学といってОKしてもらいました」と、いたずらっ子のような表情で当時を振り返る。綾乃さんのバイト先でふたりは出会う。
「僕の方から好きに。一目惚れです」。
2人のなれそめは恋愛ドラマのようにすがすがしい。日本語通訳として働いていたヒョクジュさん。綾乃さんいわく、寒さに凍えた彼女がたまたま隣にいたヒョクジュさんにくっついて「勘違いで始まった恋」だ。マンションのトラブルに遭った綾乃さんを泊めたきっかけで、ヒョクジュさんはプロポーズ。最初は親の反対もあったが、綾乃さんが26歳のとき入籍。日本が恋しくなった綾乃さんが夫を連れて帰国したのは3年後。韓国は日本以上に家督を重んじるイメージがあるが、ヒョクジュさんの祖母の応援のおかげで、快く送り出してくれたという。

■母国で食べてきた等身大の料理
驚いたことに、日本に来るまでプロとしての調理経験はゼロだったヒョクジュさん。企業へ就職も検討したが、縁に恵まれず断念。「食べるのが好き」という至極シンプルな理由で飲食店を開いた。
「中央市場で魚を買って、動画を見ながらさばきました。日本の韓国料理屋を食べ歩いたりもしました」。
そもそも筋がいいのだろう。牛骨と牛すじでだしをとったチゲに、繊細なナムル。数年で修得したとは思えないバランスのいい味わいに感心する。

「本場の味というより、僕が食べてきた家庭の味」をヒョクジュさんは目指す。例えば多くの店ではチゲの卵は追加メニューだが、アヤンでは最初から卵が入っている。これがヒョクジュさん流だ。
「在日の方が営む韓国料理店の内装に、時代劇でしか見たことがない座布団があって驚きました。僕たちは、京都にはない、現代の韓国料理屋にしたいから」とヒョクジュさん。軽やかに今の時代を生きるふたりによる現在進行形の家庭料理。たっぷりの愛情と共に、テーブルへと運ばれる。
(2019年1月10日発行ハンケイ500m掲載)

アヤン
▽TEL:07040769670
▽営業時間:11時半~14時、17時~22時半
▽定休:水・不定休

