
「あえて本物の餌を使わず、針を水面に浮かせる。フライフィッシングは『矛盾の塊』です」
疑似餌で魚を釣る、フライフィッシングの釣り具専門店。
グリーン&サン オーナー 久保 寛士
■イワナには表情がある
本物の餌ではなく疑似餌を使う釣りにはルアーフィッシングとフライフィッシングの2種がある。釣り具店グリーン&サンの専門はフライ。主に虫を餌にしている魚だけをねらう、マニアックな分野だ。
「小学3年生の時に『フライフィッシング教本』という本を本屋で見つけて。それがきっかけですね」。
店主の久保寛士さんが大人になった今も愛読している専門書だ。光を受けて艶(つや)めく魚体、ブラウントラウトの美しさに、久保少年は一瞬にして魅了された。しかし当時は、小魚を餌にする魚をねらうルアー釣りの全盛期。毛針などのフライの用具が長岡京で売られていると聞いたのは、中学2年のときだ。
「デビューは桂川でした。わくわくしながら竿を前後に振ったら、1秒もかからない間に毛針がなくなった」。
振り返ると、毛針は草にひっかかっていた。ルアーよりもフライは針が軽いため、川に糸を落とすことすら難しいと知ったデビューだった。

■釣りにくい方法を選ぶ。だからこそ、面白い
高校時代は琵琶湖に遠征し、フライでバス釣り。卒業後はバイトをしながらフライ。社割が目当てで20代後半に釣り用具屋に就職、37歳で独立。そして現在47歳、趣味が高じてとはまさにこのことだ。
しかし、素人からするとその魅力はいまいちわかりにくい。おもしろさについて聞くと、「一言でいうとフライは矛盾の塊なんです」と教えてくれた。
「本物の餌で釣ればいいのに、本物そっくりの疑似餌を使う。針も沈めたほうが釣りやすいのに、あえて水面に浮かせる。まさに矛盾の塊です。でもそれゆえに遊びがあっておもしろい」。

■フライには正解がない 何にハマるかは、その人次第
フライフィッシングはキャスティング(投げ)、毛針作り、フィッシング、そして餌となる虫の研究という4つの工程から成り、それぞれに専門家もいる。久保さんが最近、ハマっているのはキャスティングだ。具体的には、川辺で針をつけずに「投げ」の練習をする。
「ゴルフだっていきなりコースに出る人と練習する人がいるでしょう? それと同じで、ゴルフの打ちっぱなしで練習しているみたいなものです」。
本番、魚を目の前にして邪念が浮かぶと難しい、と久保さんは楽し気に話す。
好きな魚は「脂びれが付いている魚ならなんでも」。続いて「魚にも表情がある。イワナを動物に例えると愛嬌たっぷりの猫。餌を前に悩んでいる表情が見えてかわいいんです」と嬉しそう。さらに「釣果(ちょうか)が絶対ではない」と久保さん。とはいえ釣れないとつまらないですよね?との問いに「あまりにも釣れないと、それはそれでおもしろくてね」とにやり。
あぁ、この文字量では到底、語りきれない。フライフィッシングとは、深淵なる遊び。いやはや、恐るべしである。
(2019年1月10日発行ハンケイ500m掲載)

グリーン& サン
▽TEL:0758122062
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▽定休:水

